何が起こっているのか全く理解出来ないまま、リサは控えの間でシルヴィアがエマの手を借りながら彼女の為に誂えた真っ赤なドレスに身を包んでいくのを眺めていた。

「今回のこと、本当にありがとう。入れ替わりは今日までで大丈夫よ」
「……え?」

突然の申し出に、リサは言葉を詰まらせた。
入れ替わりはパーティーの終わる5日目までを予定していたはずだ。とはいえ、リサは今日の夜には誰にも告げずにこっそりこの城を出ていこうとしていたのだが。

今夜シルヴィアとジルベールに結婚の意思の確認があるのだと、エマが言っていたのをリサは思い出した。だとすれば、今夜入れ替わっていた事実をラヴァンディエ側に謝罪してから婚姻の話を進めるのだろう。

覚悟をしていたはずのリサだが、いざ役目が終わりなのだと本人から告げられると、頭が真っ白になってしまうほど動揺してしまう。


「ねぇリサ。いつだったか、一緒にモーリスの手伝いをしたのを覚えてる?」

着ていたメイド服を持ったエマが部屋から出ていったのを見て、シルヴィアはリサに話しかけた。

「…はい。バラ園の剪定を一緒にしましたね」

急に振られた昔話に困惑しながらもなんとか頷く。懐かしい思い出に少しだけ頬が緩んだ。