頭では本当にそう思っているのに、心が大きな悲鳴を上げる。ローランの前だというのに、一旦涙が滲み出すとぽろぽろと止まらなくなってしまった。
昨夜一生分の涙を流しきったと思っていたのに、多少なりとも食事をしたせいで涙が生成されてしまったようだ。
リサの急な涙を見て、ローランも驚いたように目を見張っている。困ったように眉尻を下げて、涙で濡れた頬に手を伸ばしてきた。
「申し訳ない。泣かせるつもりは…」
「いえ、すみません」
シルヴィアの恰好でこれは大失態だ。
これではこの婚姻を嫌がっている風に見えてしまうのではないかとリサが慌てて涙を拭っていると。
「何をしている」
初めて出会った日に馬車で見た険しい顔以上に不機嫌そうな表情のジルベールが、リサの涙を見るや否や、彼女に伸ばされたローランの手を睨みつける。
「なにがあった」
抑揚のない低い声はジルベールの抑えきれない苛立ちを如実に示している。
リサは思わず身体を竦ませるが、ローランは全く気にもとめない様子でリサに笑いかけた。
「先程の答えは、いずれまた聞かせてください」
「え、あの…」
「では、僕はこれで」
ローランは従者にしては慇懃無礼とも取れるほど恭しくリサとジルベールにお辞儀をしてみせると、その穏やかな微笑みを絶やすことなくその場を去って行った。



