「あ…」
身動きしにくいドレスを纏い1人で広い庭園を歩き回る気にはなれず、リサは城から1番近いバラ園へ足を向けた。
昨夜は強風に煽られていたものの、今は何事もなかったかのように凛と咲き誇っている大輪のバラ達。
その奥の茂みから、見覚えのある男性が姿を現した。
「お1人ですか?」
「え、ええ」
まさか人がいるとは思わず驚いたが、重たいドレスを着ていたため飛び上がらずに済んだ。
馬車でも言葉を交わさなかったので、彼、ローランと会話をするのは初めてだった。
眩いばかりの髪色と宝石のような深い緑色の瞳はジルベールと同じ。ラヴァンディエ王国ではこの髪と目の色は珍しいわけではないのだろうか。
目つきは騎士団に所属しているというジルベールよりも幾分穏やかなので、彼は剣よりも知恵で主人であるジルベールを支えているのかもしれないとリサは思った。
絵本のとおりに物語が進むのなら、本来はこの人と結ばれるはずだったのだろうかと彼を見上げる。
ジルベールに劣らない長身に温かみのある整った顔立ち。今まで出会ったことがないほど『イケメン』と呼ばれる部類の男性だが、リサの心は少しも動かない。
「あなたは…」
「え?」
穏やかな表情から一転、真剣な面持ちでこちらを見つめるローランに、ドクンと心臓が音を立てる。



