膝上の超ミニスカートにニーハイなんていう制服の店もあるが、とてもじゃないけど着られないと数ある時給の良いメイド喫茶の中から『レスピナード』を選んだ。
アイドルのようなフリフリの創作メイド服ではなく、中世ヨーロッパ時代の映画に出てきそうな比較的落ち着いた制服。
くるりと回るとサーキュラースカートがふわりと広がり、フリルのついたエプロンドレスが揺れる。
頭には白地に黒いリボンのあしらわれたホワイトブリムと呼ばれるヘッドドレス。
「うん、可愛いけど…2度と着ることはないなぁ」
写真でも撮っておこうかとスマホを目で探すと、ふと口の開いたダンボールの中に入っている絵本に視線を奪われた。
『私だけの王子様』
表紙にはブロンド髪にピンクのドレスを着た美しいお姫様。
胸の前できゅっと両手を握ってキラキラした瞳で空を見上げ、まだ見ぬ王子様に想いを馳せている。
梨沙は子供の頃からこの絵本が大好きだった。
昔フランスの劇作家が描いた珠玉のラブコメ戯曲を基にした絵本で、梨沙がここに預けられた時に持っていたもの。
当時3歳だった梨沙のお気に入りだったのか、彼女の母親の趣味だったのかは今となってはわからない。



