私と貴方は名前のない関係で、私はそれを問い質すことはしなくて、貴方も私の前で無邪気に笑うから。

 いつの間にか私の部屋が二人の部屋になっていた。

 貴方の作る下手くそなハンバーグはいつの間にか出なくなっていた。

 煙草のにおいを染み付かせて最終電車で帰って来た私に、貴方は背中を向けて寝ているの。

 私は大事な事を何も言えないままで。

 貴方は何も気付かないままで。

 それでも私は貴方しか居ないから。

 些細な事で喧嘩をするようになった。

 お互い辟易して、何でもなかったフリで済ますようになった。

 そういう時だけ貴方は私に貢ぎ物をするの。

 甘ったるいケーキに、

 ちょっと高いアイスクリーム。

 そうそう、

 この間は黄色い薔薇だった。

 突然泣き出した私に貴方は困惑するだけ。

 貴方はわからないでしょう。

 でも、私は知っていた。

 私と貴方を繋いでいた唯一のモノが途切れてしまっていたことに。

 酷い人。

 私はどうしようもないくらい貴方を忘れられない。

 黄色い薔薇の花弁が茶色く干からびていくのに。

 ああ、愛しい人。

 花なんて柄じゃないと言っていたくせに。

 馬鹿な人。
 
 ありがとうも、ごめんねも、言えなくなっていたから、最後に言わせてほしい。

 ケーキもアイスクリームも好きじゃなかった。

 でも、貴方の口の端っこについたクリームは美味しかったよ。