「桜、こっち来い」

それは突然のことだった。
思考が停止して頭が真っ白になる。

私以外の三人も同じみたいで大きく目を見開いた菫さんと目が合った。

だって、確かに呼んだんだ。

その甘く響く声で、私の名前を。

「桜」

ふわふわと落ち着かない頭のまま自分の名を呼ぶ声に従って和葉くんの隣に座る。

触れているわけでも無いのに全身が熱く熱を持って胸が高鳴った。
和葉くんが座っている側だけ世界が違うみたい。ジンジンと、甘く痺れてる。

「あ、の……」

強く手を握って絞り出した声は緊張で震えていて、際限なく顔が熱を持っていく。
頭から湯気が出ているんじゃないかって、本気で心配になった。

「は、顔赤すぎだろ」

一方和葉くんは硬直状態の私を見て満足したらしい。
揶揄うように呟いた後、静かに腕を組むとあろうことかそのまま目を閉じてしまった。

この何とも言えない状況への対処法が分からないのは三人も同じらしく、肩に力を入れて背筋をピンと伸ばして座る私を同情するように見つめている。

結局昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで、私はその場で固まったままだった。