私はピアノの鍵盤に手のひらを思い切り乗せた



「……どしたの?美優子さん」


樹希が聞いてくる


あの頃の記憶が蘇ってわかった


私は暴力が嫌いで樹希は嫌いじゃない


それは分かりきってる事だけど


勘違いしている自分に何故か苛立ちを覚えた


「……ごめん…私の勝手な思い込みで樹希に嫌な思いさせちゃった」


私は思ったことをそのまま言った


紅美が帰るって言った時も樹希が嫌だから止めたんじゃない



この拳が凹んだ手を1人で見るのが怖かっただけ



「うん、俺を怒っちゃって悪いけど
俺は俺の歌を褒めてくれる人を嫌ったりはしないからね
仲良くやっていこう、これからだもんな俺たち」



樹希にそう言われた



このまま冷たい印象を持たれるのは私も嫌だよ



「俺さ、美優子さんには言ってなかったんだけど
実はね」



樹希は自分の過去の事を私に話してくれた


お兄さんが居たこと、亡くなったこと、そのお兄さんに変わって歌を歌っていること


「だから俺は兄貴の分まで歌で美優子さん達と頑張ろうとしてんだ」


私はその話を聞くと


「……いい子〜」


涙が止まらなかった



私は思わず樹希の頭を撫でた



あ〜なんていい子なの〜!?


今まで本当にごめん!


こんな過去があるなんて知らなかったから……


そうなんだ……お兄さんのために



いい子じゃん


私、もう少し樹希のこと知りたくなった