次々に出撃していく部隊、村の護衛を除くと四十騎ものジャマル兵が砂漠を駆けていく。
 目指す砂漠の渓谷と呼ばれている場所で、左右を大きな崖がそびえ立っていた。
 
「ねぇ、もしこれで死んだりしたらあなたの希望も消えちゃうの?」
『そうね、でも、あなたの炎が強ければ大丈夫、けっして消えないから』

 その炎という単語に笑ってしまいそうになる。
 でも、私の後ろと中には初代聖女であるソマリがついていた。
 
「よっし! 全隊に告ぐ、準備を開始しろ! 後続部隊が到着するまで持ちこたえるぞ」

 この作戦に必要なのは、ゼイニさんが用意してくれた秘密兵器が無事に相手に通用するかどうかにかかっている。
 既に四本は渓谷に設置され、足の遅い部隊が到着するまで持ちこたえる必要があった。

「俺たち遊撃隊の底力試す機会と思え、一人として力尽きることなく村に戻るぞ!」

 ラバルナが鼓舞し、全員の士気が高まっていく。
 後続の二人乗りジャマル隊の人たちが降り、崖に器用に登っていく。
 配置について、後は相手が現れるのを待つばかりであった。

「いつ来るのかしら?」

「わからない、全てはファルスにかかっているが、アイツなら心配ないだろう」

 私たちが相手が現れるであろう場所を眺めているが、いつくるか分からない敵に対し、常に緊張状態でいるのはかなり疲れてしまう。
 絶対的な信頼感のあるファルスさんを信じて、今は待つしかない……チリチリと布越しからでも感じる日差しの強さに対し、砂は嫌なほど冷たく感じてしまう。

 それから、しばらく待っていても、一向になんの影も見ない。
 もしかすると、今日は来ないのかもしれなかった。

「遅いですね、もう少しで夜になるというのに」

「あぁ、暗くなる前には撤退してくるようにと伝えているが……」

 ラバルナの心配そうな瞳が夕日で揺らいでいるように見える。
 やはり歴戦の猛者でも、得体の知れない敵に対してはどうしても対応できない場面などでてきてしまうのかもしれない。

 そんなことを考えているうちに、陽が地平線の向こうへと消えかかったとき、人影が見えた。

「ん? ファルスたちか⁉」

 私も目を凝らして見つめてみるが、合図である白旗が見えないので今の段階ではイルルヤンカシュは現れていないのだろう。
 だけど……なんだろう、この異質な気配はドンドン胸騒ぎが強くなっていく。
 ジャマルに乗って疲れた顔をしている彼らが到着すると、全員労をねぎらい始めるが、待って――何か変じゃない?

「よっし、今日はご苦労であった。このままいくと、後続部隊が到着するのが先かもしれないな」
 
 全員の顔に安堵の色が見える。
 だけど、先ほどから増す不安感は前回襲われたときに感じたものに近い。
 これは、ソマリの特殊能力の一つかもしれない、危機探知能力と言えばよいのだろうか? この何とも言えない、嫌な空気が私の全身を包み込んでいく。

 
「申し訳ございません、先日襲われた村を中心に探索いたしましたが、何も発見できませんでした。明日は……」

「ちょっと待ってください、なにか不思議じゃない?」

 私の問いかけに、全員が注目した。

「村一個を滅ぼした相手が、なんの痕跡も残さず彷徨い続けられるのってかなり大変だと思うの、絶対どこかで発見されたり昔に討伐されたりしていたはずよ。でも、イルルヤンカシュの能力の本当に恐ろしい部分って、その凶暴性じゃないとしたら?」

「おい、何を言っているんだ。もっと詳し――⁉」

 ズズズッ――砂が僅かに動いたのを私たちは見逃さなかった。
 完全に暗くなるだったのが幸いしたが、これが闇に覆われていればきっと発見できないだろう。

「逃げて‼」

 ばっと全体に指示が通る前に、ファルスさんたちの隊の後ろの砂が盛り上がり、最後尾のジャマルに乗った人が砂に吸い込まれていく。
 
「な⁉ 総員退避! 動きつつ、陣形を整えるのだ! クソ、後をつけられたか⁉」

 そう、イルルヤンカシュの本当の能力……それは、この何十年、もしくは何百年もの間に幾度も討伐隊を退け何人もの人を飲み込んできたことに意識が向かってしまうが、それはその隠密(ステルス)能力の高さがあってのことだろう。
 だから、相手は周囲の村がドンドン無くなっていく。 
 次の餌場を求めて彷徨っていたが、私たちの存在を嗅ぎ付けた。
 
 ファルスさんたちの後をつけて、餌場へと到着したのだろう。

「クッ! 空が暗くなる。 このままだと戦いが不利になるわね、どうにか灯りをお願い!」

 松明を用意しようにも、砂の竜がゴゴゴッゴ! っと、動き回り常に人を狙っているので準備が進まない。
 元々、相手に見つかることを恐れて火を使わない予定であったが、それが裏目にでてしまった。

「お願い、朝までどうにか持ちこたえないと……」