砂漠に潜む竜が現れたことは、瞬く間に噂が広がっていく。

「またやられたのか⁉ クッソ、これで何人目だ⁉」

 幸いなことに、この村から被害は出ていないが日に日に近隣のキャラバン隊や村から被害の報告が舞い込んでくる。
 更に付け加えるならば、その情報を得てくるのは人間だ、そして敵は得体の知れない存在、最初は迅速に集まっていた情報が段々と速度を落としていく。
 怖い、恐怖心が人の足を鈍くしており、討伐しようにも正確な出没地域も特定できてない。

「近隣の村が困っている。兵隊が比較的多いこの村に合流を求めているが、資源や場所の問題もあってすぐには対応できないぞ」
「わかっている! だが、敵は常に位置を変えている。討伐隊をむやみに派遣してもやられてしまう可能性だってあるんだぞ!」

 村を警護してくれる人たちの苛立ちが増していく。
 どうやれば? だって、相手は伝説上の怪物なのに、そもそも勝てるのかも不明だった。

「レイナ、来てくれないか?」

 ラバルナに声をかけられ、作戦会議が開かれる。

「まったく、困ったもんだよ。相手は砂から出てこないうえに、逃げるので精一杯だから正確な戦闘能力も把握できないうえに、常に移動しているってことは、非常に厄介だ」

 襲われる条件は特別なく、本当に気分で襲撃しているのだろう。
 このままだと、物資の流通が途絶え人も多く亡くなってしまうので、何か手を打たなければならない。

「砂漠に潜む竜か、なんて厄介な存在を神はおつくりになられたのか……」

 ファルスさんが大きなため息をつく、でも、私には少し考えが浮かんでおり、どうにかして敵を誘い出すことは可能だと思っていた。

「レイナ、何か妙案はないか?」

「一応、考えがあります」

 私の言葉に驚きの声があがり、期待の眼差しが向けられる。

「ここに一時的にでも、人口を集中させます。そうすることにより、相手は今まで不規則に襲っていたのができなくなり、必ず私たちの村へと向かってきます」

「馬鹿を言うな、そんなことをして、もし負けたりでもすれば全滅は免れないぞ!」

 それは私も思った、だから、皆で知恵を出し合いたいと申し出ると、再度沈黙してしまう。

「いや、ヤツが捕らえられる前でも、きっちりと人々は生活していたんだ、きっと勝てなくとも追い払うことは可能だろう、だが、それは一時的な問題で、またやってくる」

 昔の資料によると、イルルヤンカシュはこんなに頻繁に人を襲う存在ではなかったと記されていた。
 だが、こんなに頻繁に現れるなんて、きっと理由がある。
 絶対的な強者に対し、私たち人は防衛しかなかったが、それは突発的に現れる存在だったことが主たる原因だったと記載されている。

「つまり、突如として現れるってのがキモだったんだろうが、今は違う、かなりの頻度で出没しているんだ、討伐するなら今を除いてないだろう」

 問題は敵をおびき出せても、確実に倒せるかという問題が残っていた。
 このままだと、確実に無駄な死を出してしまう、少しでも勝率を上げないと作戦は実行に移せない。

 何か、少ない戦力で高火力なものとか……現実世界なら軍隊が出向いてなんて考えたけれど、あれ? ちょっと待って。

「!! ごめんなさい、お話の途中でゼイニさんはおりますか?」

「どうかしたのか?」

「えぇ、ちょっと私にもう一つ考えがあります。実行してみる価値はあるかと」

 その場の全員が頷き、ゼイニさんが呼ばれる。

「すみません、今からいうものを用意できますか? それと、手先が器用な人と職人さんを集められるだけ集めてください」

「おいおい、急に呼ばれたと思ったら、まぁ、いいぞ何でも言ってみなこっちもイルルヤンカシュのおかげで、商売がまったくできないできるだけ協力はするさ」

 ありがたい、あの襲撃以来ずいぶんと素直になってくれているので、助かっている。
 でも、素直になったのは私だけのようで他の人には今まで通りに接していると聞いたことがあるけれど、なぜ?
 そして、私は頭の中で描いたことを伝えていくと、周りの人たちの顔がどんどんと変わっていく。

「そ、そんなことが可能なのでしょうか?」

「できそう? できないなら、他のことを考えるけれど」

「……」

 ゼイニさんが難しそうな顔をしながら悩み続ける。
 誰もが彼の言葉をまっていると、真剣な表情でこちらを見つめてくるなり、こう言った。

「わかった。おもしろい、やってやろうじゃないか」