月が降る夜は

12月23日。
クリスマス間近の町はすべてがキラキラしていて、歩く人たちも皆楽しそうだった。
休みに入ってからバイト先の古本屋もお客さんが増えて、同じような趣味の人が話しかけてくれる機会も増えた。
お客さんも減って一段落ついて、レジで本を読んでいると、ポケットにあった携帯が鳴った。
『今日バイト?今から行ってもいい?』
アキ先輩だった。
『いいよ。あと1時間で上がる。』
『チャリかっ飛ばすわ。』
思わずにやけてしまった。お客さんがいないのをいいことに。
わたしなんでこんなに先輩からの連絡がうれしいんだろ。あまり連絡をずっと続けるのは好きじゃないのに、先輩からのメッセージはうれしい。
ぼーっとしていると、店の前に自転車が止まった。
「間に合った!」
「あと30分あるよ笑」
先輩は息を切らして、店に入ってきた。
「俺もさっきバイト終わってさ、まじ疲れたわ。あ、これ、」
そう言って先輩は持っていたバッグからカフェオレを出した。
「さっき自販機見つけた笑 ごめん、カフェのとかじゃなくて。」
「…ありがと。」
なんでわたしがカフェオレ好きって知ってるんだろ。少し不思議だったけど、ありがたくもらっておいた。
そこから30分はお客さんも特に来なかったので、レジのところで話した。
先輩のバイト先の楽器店ですごくギターがうまいお客さんが来たこと、休憩中にもらった唐辛子のお菓子がすごく辛かったこと。
先輩は話している間とても楽しそうで、わたしも楽しくなった。
「おつかれさまです。」
店を出ると、先輩が自転車に乗って待っていた。
「今日は送らせてよ。いっつも断られるから。」
「それは普通にごめん笑」
「あ、門限ある?」
「いや、特にないけど、、。なんで?」
「ちょっと寄り道しようぜ。」
自転車をひいて歩く先輩についていく。
「俺にもさ、『俺の場所』あるんだ。」
来たことのない道を歩く。なんかすごく楽しい。
「先輩の場所?」
「友達とか誰にも教えてない場所。ハルにはなんか、教えたい。」
「なにそれ笑」
着いたのは、坂道が続く丘の上にあった。
そこからは、地元の夜景が一望できた。
「わあ、綺麗。」
「なぜかここ、全然人来ないんだ。みんな知らない『俺だけの場所』。」
「すごいね、地元なのに全然知らなかった。」
「今日からお前にもあげるよ、ここ。」
「へんなの笑 でも、ありがと。」
「おう、なんかあったらここ来いよ。俺もすぐ駆けつけるからさ。」
「そうする。」
すごく寒いはずなのに、なぜか心地いい。冬の夜がこんなに気持ちいいものだと初めて知った。
「ギター持ってくればよかったな。住宅街とかもないから、たまに練習したりするんだ。」
「へえ、いいね。」
「だろ?今度ここで弾こうぜ。」
「聞きたい。」
「世間はクリスマスかあ。俺たちはバイト漬け笑」
「え、どっか行くんじゃないの?」
「行かねえよ、お前までクラスの奴と同じこと言うな笑」
「いやだって、、普通に彼女とかいると思ってたから、、。」
「いないいない、ていうか最近はずっと学校終わったらお前といたしな。」
「た、確かに、、。」
よかったんだろうか、わたしなんかといて、、。アキ先輩は絶対人気だろうし、告白もたくさんされたんだろう。
「なんかごめんね。わたしなんかと、、。」
「なんだよ急に。俺はお前といたいから一緒にいるだけだし。」
「え、、?」
「ん?」
その時合った目をお互いにそらすことはできなかった。
「そういえばもうクリスマスなるんじゃね?」
はっとして携帯を見ると、もうすぐで11時になろうとしていた。そんなに長くいたんだろうか。
「お前、帰んなくて大丈夫なのか?」
「連絡したから大丈夫。まあもう帰るけど。」
「そっか。」
「…うん。」
少しの沈黙があった。でも話しかけられる自信が起こらなかった。
「なあ、明日もバイト?」
「うん。8時くらいまで。」
「あの古本屋、遅くまでやってるのいいよな。」
「夜にお客さん結構来るから。」
「明日も行っていい?」
「え、もちろん。」
「帰り、どっか行こうよ。ここ来てもいいし、、。あ、ギター弾く?お前もちょっと弾くんだろ?」
「いいね、楽しみ。」
「俺も。バイト終わったら速攻行くわ。」
「待ってる。」
初めて男の人と過ごすクリスマス。普通のカップルとは少しだけ違う過ごし方が新鮮でうれしかった。
家の近くまで先輩が送ってくれて、別れるのが少し寂しかった。
「先輩。」
「ん?」
「ありがと、『先輩の場所』。連れてってくれて。」
「今日から、お前の場所でもあるけどな笑」
「そうなの?笑 じゃあ『私の場所』も『私と先輩の』にするね。」
「ん、ありがと。大事にする。」
先輩は見えなくなるまで、わたしに手を振ってくれた。
転ばないか心配になったけど、普通に帰って行ったので安心した。
眠りにつくまでなぜか落ち着かなくて、なかなか寝れなったけれど、その時間がすごく楽しかった。