授業中、昨日の放課後のことばかり考えてしまう。初めて学校の男子とあんなに話した。初めて生で弾き語りを聞いた。ギターはたまに自分でも弾くけれど、あんなに新鮮にギターの音が聞こえたことはなかった。初めてあんなに男の人に目を見つめられた。昨日の放課後2時間で「初めて」したことが増えた。
また、今日も来てくれるかな。来てくれるといいななんて考えながら、時間が過ぎていった。
そういえば、昨日名前聞かれてない。興味なかったのかな。聞いてくれないかな。
「ハル、ご飯食べよ。」
あっという間の昼休み。友達のナツメが話しかけてきた。
「あ、今日放課後空いてる?サッカー部の練習見に来てよ。部員がさあ、ハルと話してみたいって人が結構いて。」
「え、放課後、、?」
「無理だったらいいけどさ。どうせハルがかわいいからってあれだよ。」
ナツメは呆れた顔で笑った。
「わたしなんかただの陰キャだよ。」
「えー?あんたモテるんだから自信もちなって!あ、もしかして好きな人いるとか?」
「…なんだろうね。」
放課後の誘いは断った。話せる自信もなかったし、いろいろやらかしたら誘ってくれたナツメにも悪いと感じたから。
ホームルームが終わって掃除を適当に済ませて、ゆったりした足取りで図書室へ向かった。司書さんと仲がいいので図書室の合鍵は私のものになっている。
旧校舎のいちばん端。冷たい風がいちばん入る位置に図書室はある。
階段を下りて、図書室のほうに視線をやると、窓のところに男子が立っていた。
「…アキ先輩。」
「お、やほ。来ちゃった。」
音楽を聴いていたのか、先輩はイヤホンを外してわたしのほうを見てそう言った。
「嬉しいです。来てくれて。」
喜びをあまり表に出さないように、冷静に言った。

その日は、先輩に好きな本は何かと聞かれた。
私は、最近読んで面白かった本を全部教えた。趣味が割と似ていたので、教えたほとんどの本を気に入ってくれた。
それがすごくうれしくて、私もはしゃいでしまった。
「なんで図書室に来るの?」
「落ち着くんです。誰にも気遣わなくていいし、誰にも気づかれずに気兼ねなく過ごせるし。それに、ここは私の場所だから。」
「お前の場所?」
「…ばかですかね?笑」
「全然。もうここはお前のもんだろ。」
先輩は窓を見てそう言った。
「名前聞いてなかった。」
「ハルです。」
「じゃあさ…」
「ん?」
「お前の場所に、もっと俺も行っていいかな。」
先輩は、私のほうを見てそう言った。
「ここは先輩の場所でもありますよ。」
「だといいな笑」
窓の外はもう真っ暗だった。先輩がまだ帰りたくないと引き留めるので、ストーブの近くで他愛もない話をして、その日は過ごした。