世界は空一つで繋がっているが、どうにも長門さんと私の世界は繋がってくれないらしい。もしくは、今までの全てが夢だったのかもしれない。別れは突然訪れる。
長門さんの時代で何度目の朝だったのだろう。いつも通り目を覚ました私の視界に広がったのは、あの質素な部屋の天井ではなく、清潔感溢れる真っ白な天井だった。微かに香る消毒液の匂いがここが病院であることを私に理解させた。傍らには両親が涙を流しながら、私が目を覚ましたことを喜んでいる姿が見えた。意識がはっきりとしていない微睡みの中、母が話し掛けてきた。

「仕事から帰ってきたらあなたが玄関で倒れていたの。とてもびっくりしたわ、良かった、目が覚めてくれて…」
「…ごめん、心配かけて」

どのくらい意識が戻らなかったのか、絞りだした声は掠れ、声の出し方すら忘れてしまったかのように苦しかった。私が意識を失っているときに見た、泡沫の夢だったのだろうか。

「先生が毎日お見舞いにいらっしゃっていたの。意識が戻ったと連絡したから、もうすぐ来てくれると思うわ」
「先生…?」
「ほら、大学の…」

母がそこまで言ったところで、病室のドアをノックする音が聞こえた。

「…失礼します。須藤さんの意識が戻ったと聞いたので」

どうして気が付かなかったのだろう。こんなにも、そのままなのに。勢い良く起き上がったせいで強い目眩に襲われたが、今の私はそんなこと気にする暇などなかった。あの日、生きることとは何か聞いてきた、あの先生だ。私と目が合うと先生は見慣れた表情で笑って、

「お帰り、須藤。長い旅路の果てに何か見付かったか?」



みんな誰もが持っている、生きる権利、幸せになる権利。願えばきっと叶えられるもの。そしてそれを阻む資格など、誰にもないのである。

今を生きる、あなたへ。
生きているということ、それはとても幸せなこと。
たくさんの人のおかげで成り立つ、この日常。

人生100年と言われるこの時代、あなたは何をして生きていく?


〈終〉