東京に戻ってきて、最初に柏木へ無料通話アプリで電話をかけた。
空港のアナウンスが背後から響く。
今まで聞いたことがないような冷たい声で「何?」と柏木が電話に出た。
「ゴメンなさい」
冷たい声に怯えつつも、電話に出てくれたことに幾分かホッとしてめぐみは謝罪の言葉を述べた。
「それ、何度も聞いた。それに謝罪なら、わざわざしてくれなくていいよ。俺たち別れたんだし。それに今仕事中なんだ、話がそれだけなら切ってもいいかな?」
「最後にちゃんと自分の気持ち言いたくて。私は、柏木さん好きだった。嘘じゃない」
「……」
「でも、結婚とかそういうのはまだ考えられない。まだ日本でやりたいことがたくさんあるの」
「……」
「わがままだけど、もう一度やり直したい」
「無理でしょ。自分で何を言ってるか分かってる?無茶苦茶だよ」
「……わかってる」
「バカなの?」
「メンヘラでバカなんだって……友達に言われた」
「その友達正解だね」
深いため息を柏木は電話の向こう側でついた。
きっと失ってしまった信用は取り戻せない。
そんなことは百も承知だった。
「……」
「ところでさ、最後に聞きたいんだけど、慎吾って誰だった訳?」
「私の……死んだ元彼氏。夏祭りの日、私の目の前でトラックにはねられたの……」
「……」
「……」
「ごめん」
長い沈黙の後、柏木は謝罪した。
少しだけバツが悪そうな声色だった。
「ううん。あの時に言えばよかった。花火がダメなのも、花火大会の日に彼が目の前で死んだの。だから思い出しちゃうから……」
「……」
「この人だけは、どうしても忘れられない。だけど、柏木さんとはやり直したいです」
「……無理だよ。それでもいいだなんて、簡単に言えない」
淡々と柏木は言葉を放った。
散々振り回した挙句、他の男を忘れられないが、もう一度付き合ってほしいなど厚かましいにもほどがあるだろう。
だが、正直に言った方がいいとめぐみは思った。
「……」
「まずは自分の気持ちを整理しなよ。それからでも遅くないでしょ」
「……うん」
長い沈黙だった。
さよならを言いたくない。
だが、ここで泣いては今までと同じだと思った。
止まってしまった時間に、生まれてしまった後悔を少しでも取り戻したかった。
柏木にも気持ちはある。
無理に自分の気持ちを押し付けてしまっても仕方がない。
自分で蒔いた種だった。
そう思い、諦めようとした時「次、日本に帰るの九月の半ばだから」ともう一度深いため息をついて柏木は言った。
「……う、うん」
「ちゃんと毎日マメに連絡してよ。俺ばっかり送るの嫌だからね」
「うん……分かった。毎日する」
「その言葉信じるから。チャンスは一回、二度目はないと思って」
「……死なないでね」
「死ぬようなタイプに見える?」
家に着いたら連絡を入れてと言って柏木は電話を切る。
上手くいくかなんて分からない。
だが、彼は生きている。
生きているうちにしっかりと向き合えるチャンスがあるなら、とことん向き合ってみるのも悪くないだろう。
蝉が外で鳴いていた。
掲示板に今年最後の花火大会のお知らせがあった。
そのチラシを一瞥して、めぐみはその場を後にした。
~終~
空港のアナウンスが背後から響く。
今まで聞いたことがないような冷たい声で「何?」と柏木が電話に出た。
「ゴメンなさい」
冷たい声に怯えつつも、電話に出てくれたことに幾分かホッとしてめぐみは謝罪の言葉を述べた。
「それ、何度も聞いた。それに謝罪なら、わざわざしてくれなくていいよ。俺たち別れたんだし。それに今仕事中なんだ、話がそれだけなら切ってもいいかな?」
「最後にちゃんと自分の気持ち言いたくて。私は、柏木さん好きだった。嘘じゃない」
「……」
「でも、結婚とかそういうのはまだ考えられない。まだ日本でやりたいことがたくさんあるの」
「……」
「わがままだけど、もう一度やり直したい」
「無理でしょ。自分で何を言ってるか分かってる?無茶苦茶だよ」
「……わかってる」
「バカなの?」
「メンヘラでバカなんだって……友達に言われた」
「その友達正解だね」
深いため息を柏木は電話の向こう側でついた。
きっと失ってしまった信用は取り戻せない。
そんなことは百も承知だった。
「……」
「ところでさ、最後に聞きたいんだけど、慎吾って誰だった訳?」
「私の……死んだ元彼氏。夏祭りの日、私の目の前でトラックにはねられたの……」
「……」
「……」
「ごめん」
長い沈黙の後、柏木は謝罪した。
少しだけバツが悪そうな声色だった。
「ううん。あの時に言えばよかった。花火がダメなのも、花火大会の日に彼が目の前で死んだの。だから思い出しちゃうから……」
「……」
「この人だけは、どうしても忘れられない。だけど、柏木さんとはやり直したいです」
「……無理だよ。それでもいいだなんて、簡単に言えない」
淡々と柏木は言葉を放った。
散々振り回した挙句、他の男を忘れられないが、もう一度付き合ってほしいなど厚かましいにもほどがあるだろう。
だが、正直に言った方がいいとめぐみは思った。
「……」
「まずは自分の気持ちを整理しなよ。それからでも遅くないでしょ」
「……うん」
長い沈黙だった。
さよならを言いたくない。
だが、ここで泣いては今までと同じだと思った。
止まってしまった時間に、生まれてしまった後悔を少しでも取り戻したかった。
柏木にも気持ちはある。
無理に自分の気持ちを押し付けてしまっても仕方がない。
自分で蒔いた種だった。
そう思い、諦めようとした時「次、日本に帰るの九月の半ばだから」ともう一度深いため息をついて柏木は言った。
「……う、うん」
「ちゃんと毎日マメに連絡してよ。俺ばっかり送るの嫌だからね」
「うん……分かった。毎日する」
「その言葉信じるから。チャンスは一回、二度目はないと思って」
「……死なないでね」
「死ぬようなタイプに見える?」
家に着いたら連絡を入れてと言って柏木は電話を切る。
上手くいくかなんて分からない。
だが、彼は生きている。
生きているうちにしっかりと向き合えるチャンスがあるなら、とことん向き合ってみるのも悪くないだろう。
蝉が外で鳴いていた。
掲示板に今年最後の花火大会のお知らせがあった。
そのチラシを一瞥して、めぐみはその場を後にした。
~終~



