夏の花火があがる頃

 お盆休みがスタートした。

 五日間の休みではあるが、めぐみも休暇を取っていた。

 何をしようか迷っていると、柏木から連絡が入った。

 お盆休み中は帰国をしているので、少しだけ会いたいとのことだった。

「久しぶり」

 インターフォンが鳴り、扉を開けると柏木がそこに立っていた。

「……お久しぶりです」

「会いたかったよ」

「……すみません」

「いや、俺が海外行ってたから会えないのしょうがないでしょ」

 謝ることは何もないよ、と柏木は優しく笑った。

 陽だまりのようなその笑顔を、めぐみは好きだと思った。

 一体何をやっているのだろうか。

 優柔不断にもほどがある。

 大事な人を裏切って、同じことを繰り返している。

 後ろめたさが不安を助長する。

 このまま柏木も、慎吾のように死んでしまったらどうしようという不安に突然駆られた。

「どうした?不安そうな顔して」

「もう……会えません」

 蝉の鳴き声が大きくなった。

 日差しが照りつける。

 空港から急いで来たのだろう。

 柏木はキャリーケースをそのまま持ってきていた。
 
 誰よりも一番にめぐみを考えてくれている柏木だからこそ、生き延びて幸せになってほしいと思った。

 こんな優柔不断な状態で、彼を幸せになど出来るはずもない。

「は?どうしたの急に」

「ごめんなさい」 

 部屋の中に入ろうとすると、腕を強く掴まれた。

 見たこともない厳しい表情で、柏木はめぐみのことを見ていた。

「ねえ、一つ聞いてもいいかな。どうして、人を拒絶しようとする?君を大事に思う人を、締め出すのはわざとなの?」

 静かに問われて、怯える。

 一体どうすれば柏木に伝わるのだろうか。

「ちが……」

「違わないだろ。自分の領域に人を踏み込ませないだろ」

「……」

「君は一生このままそうやって他人を傷つけて、拒絶して生きていくのか?」

「……拒絶なんか」

「俺たち、全く話をしてないんだよ。上辺だけ。君がちゃんと向き合う気がないなら、もう終わりだ。俺が君を受け入れる気があっても無駄だからな」

 最後に見せた柏木の激情に、どうすればいいのか分からなくて、泣きながら黙って見送った。

 待って。行かないで。

 その一言をどの口が言えるのだろうか。

 ずっと我慢させていた。

 もう会えないと言ったのはめぐみの方だ。

 これでよかった。柏木は死ななくて済むのだ。

 めぐみは扉を閉めて、風呂場に行き、お気に入りのバニラのオイルをボトルごとゴミ箱に捨てた。