夏の花火があがる頃

 その夜、めぐみは悠也の家に行かなかった。

 悠也も仕事が忙しいようで連絡はなかった。

 部屋の中で、宮野と話した結果を資料にまとめる。

 自宅で仕事をするのは、このご時世あまりよろしくないのかもしれないが、宮野と話をして少しだけ気持ちが元気になっていた。

 宮野と仕事の話をして、柏木と初めて会った日のことを思い出す。

 久しぶりに一人の夜を過ごしていた。

 雨は止んでいた。

 窓を開けると、少しだけ心地の良い風が入ってきて、短い髪の毛が揺れた。

 慎吾はめぐみの長い髪の毛が好きだった。

「ねえ、めぐみ」

「何?」

「髪の毛絶対に切らないでね」

「なんで?」

「なんでも。めぐみの長い髪の毛が好きなんだ」

 優しい慎吾の眼差しが好きだった。

 死んだことも、めぐみのことを加害者だと罵った彼も、すべて嘘だったと信じたい。

 未だに抜け出せないまま、殻の中に閉じこもっている。

 夏が終われば、柏木との約束の期限が迫ってくる。

 決めることができないまま、悠也の優しさに甘えている状況がいつまでも続くはずもない。

 それにこんな状況になってしまって、どの面下げて会いに行けばいいのか。

 ため息をつき、俯いていた視線を上げると、悠也からのプレゼントが目に入る。

 棚の上に置いてある、一粒の真珠のネックレスが入った箱を未だに開けられないでいた。

 タイで取れた真珠のネックレスを悠也はめぐみのために買ってきてくれた。

 きっと、悠也は慎吾のことを乗り越え始めている。

 乗り越えられていないのは、めぐみだけだった。

 少し、考える時間がほしい。

 柏木の時に思ったことと、同じことを悠也にも思っていた。

 考えたいという気持ちと同時に、考えたくないという気持ちも抱いていた。

 まるで逃げるかのように、仕事に向き合い、いつの間にか眠った。