フレンチ業界では有名なシェフとして名を馳せていると、先方を知るために買った雑誌に記載されていた。

 フランス料理の巨匠であるアラン・シュロンの元で修行をしていたらしい。

「初めまして」

「はじめまして」

 お互い礼を重ねて挨拶をする。

「本日は、お足元のお悪い中、わざわざお越しいただきましてありがとうございます」

 宮野の丁寧な言葉に、めぐみは恐縮し、滅相もございませんと慌てて首を横に振る。

 粗雑な扱いをされても対応に困るのだが、あまりに丁寧過ぎてもどのようにしていいのか分からなくなる。

「今年の夏は、不安定な気候ですね」

 飲み物でも注文しましょうかと、宮野はメニューをめぐみに差し出して微笑んだ。

 宮野はアイスコーヒーを、めぐみはアイスティーを注文する。

 細長いグラスに入った飲み物を、品のいいスタッフは丁寧に彼らのテーブルに置いていった。

「私、今年で四十九になるのですが、生まれて初めて自分の店を持つことにしたんですよ。右も左もわからない状態から始めるのですが、どうしてもいい店にしたくてですね」

 照れ臭そうに笑う宮野の瞳は、まるで少年のようにキラキラと輝いていた。