息が出来ずに嗚咽が漏れる。
胃液と涎と鼻水が、握りしめたタオルケットの上に滴る。
背負いきれない十字架から逃げて、柏木と幸せに暮らすことなどできない。
あの陽だまりのような場所に、行くことなど最初から不可能だったのだ。
母も慎吾も全部めぐみのせいでいなくなった。
花火は嫌いだ。
大嫌いだ。
音が聞こえる前に、安心できる場所へ逃げたかった。
脳裏に悠也の顔が浮かんだ。
彼に甘えてはいけない。
そう決めたはずだった。
彼には彼の人生がある。
頼ってはいけない。
しかし、思考とは裏腹に身体は動いていた。
明治通りでタクシーを捕まえて、悠也の住むマンションへと向かう。
あのマンションにいる間は、花火の音が聞こえなかった。
実は毎年、こっそりこのマンションの前でうずくまっていた。
悠也に彼女がいることは知っていた。
だからこそ、彼の幸せは邪魔してはいけないと思った。
彼女がめぐみの存在を知っても、我慢していたことを知っていたからだ。
だから消えた。
これ以上、自分のわがままで悠也の幸せを奪いたくなかった。
マンションの前まで来ると安心した。
耳を塞ぎ、うずくまる。
家にいる時よりかは幾分か気分が落ち着いた。
花火の時間さえ過ぎてくれれば、少しはマシになるはずだ。
「めぐみ……?」
驚き顔をあげると、悠也がそこに立っていた。彼も同じように驚いた表情を浮かべていた。
「あ……あの、これは……」
「来いよ」
理由はわかっているといった様子だった。
手を引かれると、安心した。
こういった事が原因で慎吾は死んだのに、なぜ自ら向かって行ってしまったのだろうか。
久々に来た悠也の部屋はグレーのベッドカバーと絨毯が新調されているくらいで何も変わっていなかった。
柏木ほどのこだわりを持ったおしゃれではないが、彼の部屋も整っていて綺麗だ。
「カーテン閉めるから」
何て事のない口調で、悠也はPS4を起動して、プロジェクターで映像を壁に映した。
昔はそんなものなかった。新しい家具たちが、離れていた月日を、慎吾がこの世から消えて時間が経ち始めていると気がつく。
「……ゆ、や」
「ん?」
「ごめ……んね」
泣きながら謝罪する。
本来であれば、許されるはずがなかった。
何と自分本位な人間なのだろうか。
「めぐみ」
「……」
「めぐみは、何も悪くないから」
「……」
「だから、今はリラックスしろ」
映画が始まる。
子供向けのアニメーションだった。
悠也はめぐみの隣に座って、彼女の手を優しく握った
外でドンドンと花火が上がる音がした。
彼女の耳を、悠也は強く覆った。
アニメの動きを眺めながら、めぐみはただ泣いた。
加害者なのにも関わらず。
数十分後、花火大会は終わった。
あの時間は終わったのだ。
胃液と涎と鼻水が、握りしめたタオルケットの上に滴る。
背負いきれない十字架から逃げて、柏木と幸せに暮らすことなどできない。
あの陽だまりのような場所に、行くことなど最初から不可能だったのだ。
母も慎吾も全部めぐみのせいでいなくなった。
花火は嫌いだ。
大嫌いだ。
音が聞こえる前に、安心できる場所へ逃げたかった。
脳裏に悠也の顔が浮かんだ。
彼に甘えてはいけない。
そう決めたはずだった。
彼には彼の人生がある。
頼ってはいけない。
しかし、思考とは裏腹に身体は動いていた。
明治通りでタクシーを捕まえて、悠也の住むマンションへと向かう。
あのマンションにいる間は、花火の音が聞こえなかった。
実は毎年、こっそりこのマンションの前でうずくまっていた。
悠也に彼女がいることは知っていた。
だからこそ、彼の幸せは邪魔してはいけないと思った。
彼女がめぐみの存在を知っても、我慢していたことを知っていたからだ。
だから消えた。
これ以上、自分のわがままで悠也の幸せを奪いたくなかった。
マンションの前まで来ると安心した。
耳を塞ぎ、うずくまる。
家にいる時よりかは幾分か気分が落ち着いた。
花火の時間さえ過ぎてくれれば、少しはマシになるはずだ。
「めぐみ……?」
驚き顔をあげると、悠也がそこに立っていた。彼も同じように驚いた表情を浮かべていた。
「あ……あの、これは……」
「来いよ」
理由はわかっているといった様子だった。
手を引かれると、安心した。
こういった事が原因で慎吾は死んだのに、なぜ自ら向かって行ってしまったのだろうか。
久々に来た悠也の部屋はグレーのベッドカバーと絨毯が新調されているくらいで何も変わっていなかった。
柏木ほどのこだわりを持ったおしゃれではないが、彼の部屋も整っていて綺麗だ。
「カーテン閉めるから」
何て事のない口調で、悠也はPS4を起動して、プロジェクターで映像を壁に映した。
昔はそんなものなかった。新しい家具たちが、離れていた月日を、慎吾がこの世から消えて時間が経ち始めていると気がつく。
「……ゆ、や」
「ん?」
「ごめ……んね」
泣きながら謝罪する。
本来であれば、許されるはずがなかった。
何と自分本位な人間なのだろうか。
「めぐみ」
「……」
「めぐみは、何も悪くないから」
「……」
「だから、今はリラックスしろ」
映画が始まる。
子供向けのアニメーションだった。
悠也はめぐみの隣に座って、彼女の手を優しく握った
外でドンドンと花火が上がる音がした。
彼女の耳を、悠也は強く覆った。
アニメの動きを眺めながら、めぐみはただ泣いた。
加害者なのにも関わらず。
数十分後、花火大会は終わった。
あの時間は終わったのだ。



