ロゼリアの黒い鳥




「――ようやくその手に入れた愛しい女の身体はどうだい? 気持ちいいだろう?」
 
 どこからともなく聞こえてきた声に、ギデオンは片眉をピクリと上げる。

 最初は翁のようなしゃがれた声かと思えば、若い娘のような声や、牛のいななきに似た声も混じり、最後は若い男の声となる。

 それでも何を言っているかしっかりと聞き取れるのは、相手が人ならざる者だからだろう。

 大きな黒い鳥が浴室の窓に向かって飛んできて、ぶつかる直前にその姿をスゥっと消し、再び浴室の中に現れた。

 バサバサと両翼を広げてギデオンその側までやってきた黒い鳥は、今度は体躯をボコボコバキバキと奇妙な音を立てて変異させる。

 鳥の顔が縦に伸びて嘴が引っ込み人間の顔に変わっていった。身体も人間のものになり、一人の青年が宙に浮かんでこちらを見下ろしていた。

「……カイム」

 ギデオンは青年の名を忌々しそうに呼ぶ。

「柔らかくて今にも肌に牙を立てたくなるだろう? 欲望のままに貪りつきたくなるだろう? そりゃそうさ、ずっとこのときを君はずっと待っていたものねぇ。辛抱堪らないだろう?」

 こちらの欲を見透かすような言葉を並び立てて、ギデオンを挑発する。だがそれには乗らずに無視をした。
 下手に言葉を返すと、彼を喜ばせるだけだと知っているからだ。

 カイムと呼ばれた青年は、つまらなそうな顔をした。