「行こう、由紀。失礼な奴らの相手なんかする必要ないよ」
「良太」

 服の袖を強引に引っ張る良太に思わずうちは従う。

 しばらくして、人気のない廊下で立ち止まるうちら。

「……ありがとう良太」

 ボソボソとうちは、目そらし気味に良太に言った。だけど。

「? 何が?」

 良太はこの前と同じように、何故言われたかわからないという様子で返してくる。

(…………)

 トクン、トクンと心臓の音が静かに響く。

 ……ああ、だめだ。うち……良太に惹かれてしまってるかも知れない。

 良太の特訓のために、女の子に免疫をつけてあげるためだけの仲なのに……。

(なんで、こんなに好きになっちゃったの……?)

 嫌だ。こんな気持ち、知られたくない。知られたらきっと、ほかの女の子みたいに怖がられて、一緒に居てもらえ句なってしまう。

 だから。

 ……この苦くて苦しい甘ったるい気持ちには、しっかりと蓋をして忘れようと決意したのだった。