「でも、いくら私服高校だからって、由紀の場合は」
「うち、トイレ」
「もぉー……!」

 面倒くさくなったうちは、そう言ってその場を立ち去ることにした。

「ふぅ、スッキリ」

 しばらくしてトイレを済ませると、廊下で縮こまる毛玉みたいな塊が居た。

「……?」

 よく見れば、男の子だった。長めの色素の薄い髪の毛に垢抜けない服の着こなし方は昔の少女漫画に出てきそう。昭和っぽいかんじの……なんか独特なファッションセンスだな。この学校に、こんな生徒居たっけ。もしかして、先輩だろうか。だとしたら童顔だな。丸いどんぐり眼に華奢で小柄なかわいらしいその男子生徒は下手すると中学生にさえ見えた。

(なんかおびえてる……?)

 可愛い、と思いながらうちは近づく。なんか、香水のような甘い香りがほんのり男の子からした。うちは背が高いので、反射的に少し前屈みになりながら彼の顔をのぞき込む。

「大丈夫?」
「!」

(あ、目が合った)

「う、うわああああああん」
「!?」

(いきなり泣きながら抱きつかれた!?) 

 ガタガタ震える男の子。当然うちはソレを引き剥がす。