お願い、名前を呼んで。

建設中のショッピングモールの外観はほぼ完成していて、海沿いの立地と合間って、とても素敵だ。海風に当たりながら、周りを歩いた。

私もいつか、こんな素敵な建物を手掛けられるようになりたい。隼人はやっぱり凄い人なんだな。

ぐるっと回るとさっき隼人が入って行った出入り口に戻って来た。
私は、近くのベンチに座って、隼人を待つ事にした。

少しの間待っていると、ドアが開いたから隼人かと思って見てみると、綺麗な女性が出て来た。
その人が私に近付いて来る。

きっと「白井さん」だと、女の勘が働く。

「こんにちは。あなたが野崎さん?」

向こうも女の勘なのか。

「はい、そうです。」

「隼人さんと一緒に仕事をさせて貰っている白井と申します。少しよろしいですか?」

隼人さん??
ただの仕事仲間が「隼人さん」なんて呼ぶのかな。

「はい、何でしょうか?以前、竹内が会議中だと教えていただいた方ですよね。その際はありがとうございました。」

「昨日、隼人さんが倒れたのを知って、会社から様子を見に来られたんですよね。」

「はい、そうです。」

「実は隼人さん、先週はとても忙しくて、木曜日の夜から、既に体調が悪かったんですが、ご存知でしたか?それで、私が家まで送って、少し看病させてもらったんですけど。昨日の病院にも付き添ったのは私です。」

そんな事、一言も聞いてない・・・。

「そうでしたか、お世話をして頂いて、ありがとうございます。」

「こんな事を言うのは失礼かと思いますが、これからお出掛けですか?」

「少しだけ、街を見てみようかと。」

「隼人さんは、本来なら今日と明日はドクターストップがかかっていて、家で安静にしておかなければならないはずです。それなのに、ここにも来てしまうし、その後、街の散策なんてあり得ないと思いますが。」

「すみません。軽率でした。」

「あなたが同僚として、彼を心配されるのなら、もう様子は分かったんだし、帰られたらどうですか?あなたがいると、隼人さんも気を遣って休めないかと。」

白井さんの言うことは、いつも正論で私はぐうの音も出ない。

「申し訳ありませんでした。白井さんの仰る通りです。竹内にはゆっくり休んでもらって、来週の仕事へは支障のないようにいたしますので。ご忠告、ありがとうございました。」

楽しいデートは海風に飛ばされて、遥か彼方に消えて行った。

「では、失礼致しました。」

白井さんは一礼すると、ビルの中へと消えて行った。
隼人と白井さんだけが入れる向かう側の世界。
私には立ち入らない場所と空気感。

彼女はとても丁寧だけど、決して、「あなたを認めない。」という強い意志が伝わって来た。

隼人が戻って来たら、今日のデートは中止にして、家に帰ろう。
それに、白井さんが言ったみたいに、私は東京に
戻った方がいいのかもしれない。

白井さんは的確な箇所を突いて、私にダメージを
与える。きっと、仕事もできるんだろうな。