「優香、飲んでる?」

「ううん、だって、今、ビールを開けたところだもん。だから、まだ飲んでない。どうして?、」

「いや、優香がやけに素直だからさ。」

私は急に恥ずかしくなった。
確かに、今までも何度も愚痴を聞いてもらったことはあったけど、こんな風に竹内君に弱みを見せたり、甘えたりしたことはなかったから。

「ごめん、なんかいっぱい話聞いてもらって。」

その時、竹内君の背後から電話越しに女性の声が
聞こえた。

「竹内君、まだ?もう私達以外、誰も残ってないよ。明日も早いんだから、早く帰りましょうよ。」

『分かりました。直ぐ行きます。』

竹内君はきっと電話のマイクを手で押さえてはいるだろうけど、はっきりと声が聞き取れてしまう。

「ごめんなさい、まだ仕事中だったんだね。もう、切るね。女の人の声、聞こえた。」

「仕事仲間だよ。それより、頑張りすぎるなよ。
そう言えば、資材の注文の件も藤田さんから聞いてるから。明日、俺から業者さんに話してみるから。」

「分かった。何から何までありがとう。」

「気にするなって言るだろ。だから、もう泣くなよ。じゃあな。」

竹内君はそう言うと、電話を切った。

泣いてるの、バレてた。

私は竹内君の優しさに触れて温かくなる心と背後から聞こえた女の人の声にざわつく胸騒ぎを持て余している。

二人は一緒に帰ったんだろうかとか、一緒に飲みに行ったかもしれないとか、抑えようと思っても、どんどん想像が膨らんだ。

それに、もしそうだったとしても、私に竹内君に何も言う権利はない。
同期と仕事仲間は、同じようなものだ。

考えても答えなんて出ないのに、頭から離れない。
私は結局、眠れない夜を過ごした。