「寝ちゃったんだね」

「ああ、動かすと起きるかもしれないから今日はここで寝かしてやろう」

「私、ブランケットを持ってくるね」

「悪いな」

 心地よい眠りからエリックの意識がふわりと浮上した。相変わらずヴィクターは酒に強くて、エリックは1人で酔い潰れた。良い酒だった。すごく良い酒だった。ヴィクターはリンネと出会ってからはずっとそうだが、今までにないくらい幸せそうだったし、そんな友の顔をみながら呑む酒は最高である。

 パタパタと軽い足音がして、優しくブランケットがかけられる感触がした。リンネが好んでいつもつけている柑橘系の香水の香りが辺りに漂った。

(とか言うと、ヴィクターに殺される……)

 目を閉じたまま、思わずくくっと笑う。

「エリック、良い夢見てるみたいだね」

「ああ」

 自分を起こさないようにとの配慮で小声で交わされる二人の会話が耳に優しい。気配がやがて静かに去っていき、部屋の灯りが消されたのが目を閉じていてもわかった。

(こんな性格の俺だけど、いつか幸せになれるかな……)

 二人を見ていて、初めて家庭を持ちたいと思った。
 エリックは最後にそう思うと、そのまま眠りの渦へと落ちていったのだった。


<了>