「俺はお前にずっと傍にいてほしい」

 ヴィクターだったらそう言ってくれることは分かっていた。だって彼は私の不安定さごと、愛してくれると誓ってくれたのだから。私が不安に思う度、揺れる度にきっと彼はそうやって言い続けてくれるだろう。私が信じられなくても、他ならぬ私のために、私自身がいつか本当に信じられるようになるまで。

 彼と繋いでいる手にそっと力を込めた。私をこの世界に繋ぎとめてくれている暖かい手だ。

「ヴィクター、愛している」

 私は、元の世界――日本にいるであろう家族や友達たち、仕事場や今まで関わってきた愛すべき人々の顔を思い浮かべた。私の推測が正しければ、元の世界での私の肉体は滅んで、彼らはとてつもなく哀しんでくれたはずだ。

 時間の経つスピードがこの世界と同じだったとしたら、一年経った今も、時には涙を零してくれているかもしれない。私がこの世界で比類なきヴィクターという伴侶を得て、幸せに暮らしていく、ということを彼らに伝えられないことが本当に心残りだが、一日でも早く悲しみが癒えてくれることを願う。私と話した何かを、私と過ごしたひと時を思い出して、笑顔になってくれる日がいつか来てくれることを願う。

 アリアナ。

 十八歳で生を諦めてしまった貴女に会ってみたかった。そして彼女に伝えたかった――何があっても命を諦めてはいけないと。生きてさえいればどうとでもできる。何でもできる、だって貴女はまだ若かったのだ。過ちだって犯すことだってあるだろう。

 他人なんか気にする必要なんかない、他人は無責任に貴女のことをジャッジするだけ。誰かからの無責任なジャッジに怯える必要なんかない。彼女は不特定多数の誰かに怯えるのではなく、娘を愛してくれている家族のことを信じるべきだった。

 死んでしまえばそこですべてが終わってしまう。もしかしたら数年後、本当のアリアナのことを理解してくれる誰かに会えたかもしれない。あの時は大変だったわ、と笑ってお茶を飲む日が来たかもしれない。今となっては、すべては遅すぎたけれど。

 アリアナ。
 私に出来ることは、貴女のことを決して忘れないこと。貴女と共に生きていくからね。

「俺も愛している」

 見上げると、ヴィクターが微笑んでいた。

「さあ、一緒に帰ろう、凛音」

 そして私はヴィクターと一歩を踏み出した――未来の方へ、明日に向かって。