突然くだけた口調で話し出したので、私は思わず目を瞬いた。今までが『公』でこれからが『私』ということなのだろうか? 王太子のそんな言動の変化にも慣れているのかヴィクターは驚いた様子も見せずに淡々と答える。

「どこがって――全部です、殿下。一言ではとても表せられません」

(羞恥心のスイッチを押し忘れてないか!!)

 その答えに私の顔は真っ赤になり、王太子は破顔した。

「お前の変わりようはエリックに聞いてはいたが、まさかこれほどまでとは!――アリアナ」

「はい、殿下」

「俺が来年アラニアル王立国から妃を迎えることになっているのは知ってるな?」

「はい」

 隣国アラニアル王立国との友好の証として、マーカスが幼き頃からアラニアル王族の第2王女を正妃として娶ることは国同士の約束だったらしい。このこと自体は周知の事実だったので勿論この国について勉強をした私も知っている。

「アリアナは我が妃の良き相談役になるように。俺が使いを出したら必ず夫婦で王宮に来るようにしろ」

 私が承諾の意を告げる前にヴィクターが答えた。

「……御意」

 彼の不服そうな声音に気づいた殿下が爆笑した。

「おい!俺は我が妃の相談役に、といったんだ。俺の相談役ではないんだぞ!何をそんな嫉妬することがある」

「とんでもございません殿下、我が婚約者をそのように取りたてて頂き、臣下としてこれ以上ない幸せでございます」

 言葉だけを聞いているとごく普通だし彼の表情筋はそんなに動いていないのだが……。ただ分かる、分かります。

(一ミクロンも思ってないよね…)

 ただ王太子はそんなヴィクターを面白そうに眺めるばかりだ。

「そんなにアリアナを人目につかせたくないのか? お前も人間だったんだな」

 王太子との謁見は和やかなムードのまま終了した。