最初に私が前の世界では31歳だったと知ったとき、ヴィクターは、自分が若造だと思われてフラれるかもしれない、という恐怖感でいっぱいになったらしい。私が年上すぎて嫌だと思われるかも、と思ったように。年齢に関してのこだわりは、お互いを知っていくうちに、徐々に些細な問題になっていった。私はこの世界では31歳とは思えないほど常識がなく(身体は18歳のままではあるが)、彼は22歳らしからぬ落ち着きがあるわけで、お互いが気にしていなければこだわる必要はないのだ。

 それでも、私にはずっと心の隅で気になっていることがあって、今日はそれを彼に聞いてみようと思った。

「ヴィクターさ、私が凛音の顔のままだったらきっと見向きもしないと思うの。私はアリアナみたいに美人じゃなかったから」

 そう、年齢の問題は乗り越えられても、外見の問題がクリアできない。転生して、昔の自分より美人になってしまったら、誰でも悩む問題ではないだろうか。綺麗な私に惹かれたのではないか? という怖さ。私がそういうと、彼はうーんと唸って腕を組んだ。

「俺はそうは思わない」

「なんで?」

「まず、アリアナのことは小さい頃から知っていて確かに美人とは思っていたけどまったく惹かれなかった」

「まぁ、それはそうみたいだけど」

 アリアナに対してだけではなく、これが彼の初恋であるということは本人のみならず周りの人からの証言ではっきりしていますが。

「顔だけならアリアナより美人というなら俺はいくらでも見てきたし、言い寄られてもきたけど――誰一人グッとくるやつはいなかった。それがアリアナの中に凛音が入った瞬間、突然どうしようもなく惹かれたんだ。凛音と出会ってから、顔は確かにアリアナだが、一度も彼女だなって思ったことが実はない。本当に別人みたいだと思ってた」

「えっ! そうなの?」

 それは初耳である。ヴィクターは頷いた。

「そんな感じで戸惑ってた時に、エリックに中身が凛音なんだと言われてようやく納得した。今はアリアナの顔だから信じられないかもしれないが、俺は凛音が凛音の顔のままでも同じように惹かれた自信がある。今だってお前の顔なんて見てない、表情は見てるけどな。お前の中身が大好きだから、顔なんか二の次だ。美人かどうかなんて人を好きになるのに関係ない」

 ヴィクターは自分が美しすぎるほど美しい男らしい顔をしているから、相手の顔の美醜はこだわらないのかもしれないな、とも思ったけれど、こうやって言ってくれるのは純粋に嬉しかった。

「アレクの婚約披露パーティの時、お前泣いてただろ」

 うん、あの夜は今から思い返しても散々な失態をしているから、泣くのは当然だ。

「あの時お前の涙をとめてやりたいって思ったんだ。あとからエリックに侯爵家に恥をかかせて申し訳ないって思って泣いてたって聞いて――そうやって他人のために泣ける凛音がどうしようもなく好きだ」

 至近距離に座った絶世の美男子にこうやって囁かれて、顔が真っ赤になっていくのを止められる貴族令嬢がいたら是非そのコツをご教授願いたい。