屋敷から見える範囲の中庭を、結婚前の二人がそぞろ歩くのはきちんとしたルールにのっとった求婚方法、らしい。手をつないで歩く(連行されているのに近いけれど)のは求婚を受ける前の貴族として適切な関係なのかどうかは疑問である。中庭に来ると、ヴィクターはやっと安心したのか私の手を離した。私たちは隣同士でゆっくりと歩き始める。

「リンネ」

「はい」

「俺はお前のことが気になって仕方ない」

 彼らしいといえば彼らしい、裏表のない直球の言葉だ。

「俺の色んな噂を聞いているだろうから、こんなことを言っても信じてもらえないかもしれないが――女性に対してこんな気持ちになったのは生まれて初めてだ」
 
 その告白に驚いて私は瞬いた。
 ちょっと、いや、かなり意外ではあるが―――私は自分の持っていた印象が正しかったのを知った。エリックも前に、ヴィクターは本当は純情だよと言っていたような気がするし。あ、でも恋が初めてってだけで身体は違うかもしれないよね?これだけイケメンだし。

「ヴィクター様の噂に関しては、私は元から信じていません」

「ヴィクターでいい」

 彼は即座にそう言った。

「エリックのことは呼び捨てにするだろう」

「彼はまぁあの性格ですし……呼びやすいというか……」

 そこまで言ってふと彼の横顔を見上げると、完全に拗ねている。

(いやいや…こんな分かりやすい人だったの?)

 突然、彼が可愛い、という気持ちが心の中に芽生えてきて自分でも戸惑う。そうだ、とても落ち着いているからつい失念してしまうが――彼はまだ若いのだ。私はごほんと軽く咳払いをした。

「では、―――ヴィクター、貴方の噂に関しては私は本当に最初から信じていません」

 そういうと、自分で呼び捨てにしろと言っていたのにも関わらず、彼の耳朶から徐々に顔が真っ赤になっていった。

(なんなの可愛すぎるんですけど!!)