パサパサしているお米をおにぎりにするのはちょっとしたコツがいる。何回もトライしているうちに小さめに握る分には上手にできるようになってきた。このタイプのお米は炒飯に向いているが、おにぎりもやはり大好きな私である。スープと小さめのおにぎりをいくつか拵えたところで、分かりやすく頭を抱えたエリックとすっきりとしたヴィクターが連れ立って厨房にやってきた。兄の顔にはでかでかと、二日酔いです、と書いてあった。

「ぶっ」

「―――笑ったな」
 
 頭痛がするらしいエリックが眉間に皺を寄せながら呻いた。

「いや、昨日の段階でこうなることは薄々気づいていたよ」

 スープとおにぎりを出してあげると、それでもエリックの顔が輝いた。――信じられないくらい青白いけど。ヴィクターは間違いなくおにぎりは生まれて初めて食べるはずだが、黙って全て平らげた。

「リンネもさ、酒での失敗はあるでしょうよ」

 兄がそうやって言うので、睡眠不足の私は思わず普通に返してしまった。

「そりゃあ何回もあるけどさ」

答えてから、フリーズした。兄は私の名前を呼んだ、そしてアリアナはお酒を飲んではいけない年齢だ。そして兄を恐る恐る見ると、彼が頷いたので、今度はヴィクターに視線を移した。彼はいつもの澄ました表情で、言った。

「―――話は全部エリックから聞いた」

 ☆☆☆

 朝食の後、応接間に3人で移動して、エリックから全て話したし、ヴィクターはそれを理解したよ、ということを言われたのだが私は内心恐慌状態に陥っていた。

 全部とは?理解したとは?

 声を出すのも頭痛がするのであろう兄が小声で説明する。

「アリアナの中身が、二ホンという国で生まれ育ったリンネっていう大人の女性ってことかな」

「おとなのじょせい」

 あ、そうか、この国は淑女の年齢をはっきり言うのは無礼だったもんな。

「俺はずっとお前がアリアナだっていうことにどうしても納得がいかなくて、昨日酒に酔っているこいつを問い詰めたらやっと言いやがったんだ」

 あれだけベロベロに酔っているときにほぼ素面のヴィクターにあれやこれやと絡まれたら……うん間違いなくきつかったね。

「いやほんと地獄を見たかと思ったよー。ま、それだけヴィクターも必死だったんだろうけど」

 エリックは二日酔いで喉が渇くのか、厨房から持ってきた水をガバガバ飲みながらそう言った。

 ヴィクターが必死?
 ヴィクターが私の目の前に立つ。

「リンネ」

「はい」

 本名で呼ばれると反射的に返事をしてしまう。

「俺と婚約してくれないか?」