「わぁ!ごめんなさい!」

 私は慌てて椅子から降りて、綺麗な台ふきんを持ってくると濡らしたテーブルの上を拭き始めた。

「気をつけてよリンネェ」

 私の慌てる様をみて、大爆笑する兄。エリック……完璧に酔ったな。まあ久々の実家、親友と時間を気にせず飲めるっていうのはこれ以上ない酔えるタイミングなのだろうけど。

「リンネってなんだ?」

訝し気なヴィクターの声が厨房に響いた。私は答えられず、エリックを見た。その答えを口にすることは私の裁量を超えている。兄は相変わらずげらげら笑いながら、秘密―!と言った。

 ☆☆☆


 完璧に出来上がってしまった兄の介抱はヴィクターに任せ、私は厨房で片づけをしてから自分の部屋に戻った。部屋はいつもながらティナさんたちの手によりきちんと整頓され、今も私が帰るのを待っていたかのようにランプが灯っている。

 ベッドサイドに置いてあるノートを手に取った。この真っ黒に書きこまれているノートは私の宝物だ。半年経った今は、最初の頃のように、授業終わりに一秒でも惜しんでメモを取るということはなくなってきたが、それでも今でも同じように知らないことはまだまだ山積みで、ノートを取ることがない日はない。パラパラと何気なくノートをめくっていると、そろそろこのノートの残りが少なくなっていることに気づいた。

 えーと……新しいノートは確かベッドサイドのローテーブルの引き出しに入っていたとティナさんが言ってたような…

 初めて私はこのチェストのドアを開けた。ノートらしきものを見つけ、あったあったーーと取り出してみると、それはしかし、どうみてもノートというより日記のような分厚い――

 アリアナの日記だった。