その日、お誘いを受けたのは、侯爵が仕事上で付き合いがあるという、バンデンハーク侯爵家が主催するお茶会であった。
 夜会とは違い、お昼に開かれるお茶会は至極カジュアルで、ゆえに頻繁に開かれているという。

(カジュアルランチミーティングってとこかしらね)

 まったくうまくできる自信は切り抜けるが、とりあえず兄がエスコートを頼んだヴィクトルがいれば彼が何とかしてくれるだろう、というくらいにはエリックのことを信頼していた。エリックが選ぶことに抜かりがあるようには思えない。彼は間違いなく策士に違いない。

 カジュアルな会合なので、シンプルなドレスでいいと言われたのがとても嬉しい。ティナさんに相談して、アリアナがあまり好みではなく一度も着たことがなかったという大人っぽいデザインの、ライトグレーのマーメイドラインのドレスを選んだ。身体の線がはっきりと出るが、アリアナはとてもスタイルがいいので気にならない。お化粧も軽めで、アクセサリーも最小限だ。

 侯爵と共にお茶会に行くと思っていた私が階下に降りると、そこにケイン伯爵が――もとい、ヴィクトルが立っていた。彼もこの前の舞踏会で着ていたスーツよりもずっとシンプルな黒のスーツを着ているが、むしろシンプルな服装の方が彼の美貌を際立たせる。

(エスコートって家から!?)

「ヴィクトル様、お待たせしてしまって申し訳ありませんでした」

 ヴィクトルは左の口元をだけを微かに緩め、笑ってみせる。

(うわぁこれめっちゃケイン伯爵っぽい……ニヒルな笑顔)
 
 昼間から、リアル推しに会えたようなもので、私の心の中は思わず弾む。

「ヴィクターでいい」

「ヴィクター様」

「2人の時は、様はいらない」

 彼は鷹揚にそう言うと、馬車まで完璧なマナーでエスコートしてくれたのだった。