アレク様の婚約発表がいよいよあるということで、ヴィクトルと大広間に戻ることになった。彼が礼儀通りに左腕を差し出してくれたので、私も右手を伸ばして彼と歩き出す。人々でごった返すあの空間に戻り悪意の視線にさらされることを思うと、自然と気が滅入ってくる。

(でも頑張らなきゃ)

 ヴィクトルはエリックより身長が高く、身体もがっしりしているのでエスコートに余裕を感じられた。私が彼にエスコートされていることに、令嬢たちを中心に驚きの声があがっているのに気づいたが、私にはどうしようもない。ヴィクトルは何も聞こえていないかのように落ち着いた様子で待っていたエリックに私を引き渡し、家族の元へと戻っていった。

 私の顔色を見て、エリックが人ごみを少しだけ避けてくれた。私たちは人垣の後ろからシュタイン公爵が、アレク様の婚約が調ったことを発表するのを見守った。

 アレク様はヴィクトルの兄弟らしく大柄ではあったが、顔立ちはとても優しそうで実直そうなお人柄がうかがえ、彼の婚約者は身長が小さく、にこやかでとても親しみやすい笑顔を浮かべている。無事婚約発表が公爵の口からされ、人々が拍手で持ってそれを受け入れ、今日の夜会はこれにて解散――のはずだった。

 侯爵が、シュタイン公爵と少しこみいった話があるとかで、帰りを少々待たされることになった。大分人が減ったとはいえ、大広間にはまだまだ混雑していたので、エリックが壁の近くに連れて行ってくれた。

「疲れたよね? 何か冷たい飲み物を持ってこようか」

 兄が私の顔色を窺うと、飲みものを取りに行ってくれる。先ほどは舞踏会の真っ最中だったので、礼儀を慮ってヴィクトルと取り残されてしまい困っただけで、ひとりで立っている分には何の問題もない、と思っていたのだが――