夜会が開かれているシュタイン公爵家の屋敷は想像を絶するほどに豪華絢爛であった。これこそ映画で見た王宮での夜会の光景のようだ。綺羅びやかなシャンデリアのもと、生演奏のワルツのような音楽に合わせて、ゴージャスな装いに身を包んだ貴族たちが踊っている。

「クリスティアーノ、よく来てくれた!」

 シュタイン公爵が心からの歓迎を示している笑みを浮かべて侯爵と握手を交わした。横では美しく優しそうな公爵夫人が微笑んでいる。

「ようやくアリアナの調子が戻ってな。アレクの婚約パーティにはどうしても来たいと思っていたからね」

 そう、今日の舞踏会はシュタイン公爵家嫡男のアレクサンダー様のご婚約お披露目パーティを兼ねているらしく、それもあってどうしても家族全員でくる必要があったのだ。

「エリックも久しぶりだな、騎士団で頑張っているようだね。君の活躍を耳にするぞ」

 公爵が兄にも声をかける。エリックが私の横でありがとうございますと返事をしている。

「アリアナも体調が戻ったようで良かった。今日は体に無理ない程度に、楽しみなさい」

 アリアナはシュタイン兄弟には嫌われているらしいけど、さすがに公爵は大人だった。私は貴族令嬢の礼をして、謝意を示す。


 よし、第一関門突破。

 シュタイン公爵家はとてつもなく広かった。通された大広間は、侯爵家の大広間の一体何倍かと思わせるくらいの広さで、テーブルが並べられ、立食パーティとなっている。お盆を持った召使たちが何人も忙しそうにキビキビと行き交い、貴族たちは至るところで、そこここで笑い合っている。しかし、規模でかすぎ。こ、こんなに人が多いとは……。

 さすが公爵家の舞踏会だわ。私を見ると、皆が一斉にヒソヒソ話を始める。あんなスキャンダラスな事件を起こしておいてよくぞ――といったところだろうか。隣にエリックがいなかったらさすがに膝が震えて立っていられないかもしれないと思うほど、不躾な視線ばかりだ。

「アリアナ、大丈夫?」

 隣でこっそりエリックが私に尋ねてきた。

「うん……何とか息してる」

 エリックが私をそっと壁の近くまで連れてきて、人ごみを避けてくれた。しかし、さすがにエリック! 我が兄! 超優良物件! 貴族令嬢たちがどんどん集まってくるじゃないの!

 これじゃあ人ごみを避けた意味が全くないじゃないの。どうするんだろうなぁと思ってみていたら兄は人好きをする笑みを浮かべて、今日は病み上がりの妹についていなきゃいけないからごめんねと如才なく人あしらいをしている。令嬢たちに氷のような視線でにらまれる私。おお……これこそ小説で読んだような貴族たちの世界……。

 令嬢たちはしばらく諦められなかったようだが、さすがにエリックが傍にいる相手が妹であるアリアナなので、しぶしぶ散っていった。人口密度がやっと下がると、エリックがふーと息を吐いた。

「ごめんね」

「いやこちらこそごめん…久しぶりの地元での舞踏会なんだよね? 私がいるから自由にお友達とも話せないよね」

エリックが私を凝視し、ふは、といつもの気の抜けた笑みを浮かべた。

「――君は本当そういうところが―――」

「久しぶりだな、エリック」