鶏肉と野菜炒め、サラダを作り終わったら、今度は卵を出してきて、目玉焼きを作る。フライパンの蓋が見当たらないのでちょっと作りにくくやや焦げてしまったが許容範囲だろう。これも塩で食べるけど、目玉焼きの塩は美味しいから正義!

 私が料理を作りながらも、大きな流し台で、汲み置きの水を使ってフライパンやボウルなどを洗っていく様子を、目を丸くして兄は見ていた。洗ったものは、流し台の横にタオルをひいて裏返しに置いておく。目玉焼きが完成して、ライ麦パンを取り出してきて、バターも一緒にお皿にいそいそ並べる。まだ外は薄暗く、夜が明け始めたくらいの時間だ。

「エリック様、厨房でこのまま食べる、というのは令嬢にはあるまじき行為なんでしょうか」

「うん、アリアナはしないだろうけど、リンネならいいんじゃない?」

 ぱちんとウィンクされた。キッチンの真ん中にある作業台と思われるテーブルに彼の分と自分の分をそれぞれ並べている間に、エリックが横に重ねられている椅子をもってきてくれたので、座ってから両手を合わせた。

「ですよね! 熱いまま食べるのが一番です! じゃ、いただきま――す!」

「イタダキマス?」

「あ、私の育った国だと、食事をする前にこうやって両手を合わせて、食事が出来ることを感謝するんです。命を頂くって意味で、いただきますと言うんです」

 どうやって訳されたかは分からない。自動翻訳機能はしかしさすが有能だったようで、兄は私の答えを聞くとふわりと笑った。

 ☆☆☆


「何これ美味すぎる! リンネ天才! 元の世界で料理人とかだった?」

「違います! あ――、でもこれ、染みるぅ……こういうの食べたかったんです……」

 兄も美味しいと思うんだ、昨日素材を生かした塩味のご飯もモリモリ食べてたからそっちのが好きだと思っていたけど。私も久々の口に合うご飯でかなりの勢いで食べたと思うんだけど、兄の食べっぷりはちょっとひくくらい凄かった。なんだ、貴方も我慢していただけか。食事って大事だなとしみじみ思う。

「やばいこれ食べちゃうと、うちの料理人のが食えなくなるかも…」

「ははは……」

 乾いた笑いで答える。食べているうちに本格的に夜が明けてきてそろそろ使用人たちも起きてくるだろう。私は食べ終わった食器を重ねて流しにもっていって、洗い始めた。

「洗い物も本当に慣れているし……リンネすごいね」

「いや。全然凄くなんかないです。私はこの国では何もできない赤ちゃんみたいな存在ですよ?」

「貴族令嬢としての知識より、料理が出来た方がいいような気がするけどな」

 私はおや、と兄の顔を見た。揶揄っているかと思いきや、彼は意外や意外、真面目な顔をして私を見ていた。彼が真剣にそう言ってくれたのは伝わってきたので嬉しくなり、ありがとうございます、とお礼を言った。

 食器を洗い終わると、貴族令嬢にあるまじき、トラウザー姿を誰かに見られる前に部屋に戻ろうと、エリックに挨拶した。