「何その格好!」

 遠慮なく大爆笑の渦の中にいる兄に声をかける。格好……ああ、ドレスではなく、パンツ姿のことですね。料理する時にあのひらひらしたドレスは鬱陶しくて仕方ないのよね。それに、エリックは私のことをもうアリアナとは別人だと知っているのだから、この姿を見られても気になりません。

「おはようございます、エリック様。朝早いんですねぇ」

「おはようリンネ。騎士団ではいつもこれくらいの時間に起きるからね、勝手に目が覚めちゃって」

 そういうと彼はしげしげと私の手元を見る。

「色んな材料を使うんだね。何作るの?」

 笑いが収まり、私が作る料理に興味津々の様子である。

「とりあえず今朝は、簡単に炒め物にしてみます」

 まな板はいかにも木を切ったものにヤスリかけただけ!と言わんばかりのものを見つけ、それから、かなり大きめサイズの包丁らしきものを探しだした。切れ味は鈍そうだけど、包丁は包丁だ。エリックのことは気にせず、ガンガン食材を切り始めた。あ――楽し。料理ってこんなに楽しかったっけ?

 先ほどの野菜に加えて、サラダとして食べれそうなレタス(と思われる葉野菜)を取り出す。お酢も発見したので、ドレッシングも作ろうっと。たまねぎをみじん切りにして、お酢とオリーブオイル、砂糖、塩コショウと混ぜる。醤油があれば……和風ドレッシングになるのに……この世界観で醤油があるわけないですよね。残念。

 一口大に切った鶏肉には塩と胡椒をまぶして、ついでにローズマリーも細かく刻んでまぶしておいておく。しばらく置いて味がなじんだら小麦粉を振る。エリックにきいたところによると、火はそんなに簡単に起こすことができないので、厨房の隅にある大きな土鍋――重い木の蓋をあけたら、あの黒いスープが入っていた――に使われている火を使うんだそう。要するに、火種のかわりか。これまた厨房の片隅にたくさん置いてある木の枝を使った。

 コンロなんてないけど、焼き場なんだろう、と思われる箇所に(木の燃えカスが残っているからすぐに分かった)フライパンを置くと、バターを落として、野菜と共に炒める。塩コショウもしっかりと。何よりローズマリーよ、いい仕事してくれると私は信じてるよ!

 しかし、あ――既にいい匂い。成功の予感しかしません!

「めちゃくちゃうまそ――」

 後ろから私の手元をのぞきこんだエリックが実感を込めて言うので、食べますか? と聞くと、ぶんぶんとすごい勢いで首を縦にふったので、2人分作ることにした。