“別れよう”



昔から音楽はすきだった。こころの隙間に、ゆっくり浸透してわたしを埋め尽くしたのは音楽だったから。


だから、わたしが音楽を始めるのだって、必然だったんだ。


だけど、いまはもう、相棒だったアコースティックギターにも、夢の詰まったエレキギターにも、長らく触れていない。


あんなにだいすきだった音楽も、だいぶ前から、聴くことすら避けていた。


「これから、どうしようか」


あそこに住み始めたときは、自分の荷物なんて、このスーツケースとボストンバッグに入るくらいの荷物しかなかったのに、あれから四年が経ったいまでは、自分の荷物の半分も入らなかった。

それでも、相棒だったアコギだけは未練がましく背中に背負ってきてしまった。



自分のことは本当にバカだとおもう。


だけど、バカみたいな、あのたったひとつの感情だけで、あの人の隣にいつづけることなんて、もう、無理だった。



どうして人は、変わってしまうんだろう。


できることなら、あの頃の、ちっぽけなライブハウスで、音楽を奏でられることの喜びを、未来をおもって夢を追うことだけをいきがいにしていた、わたしに戻りたい。


あの頃の、純粋な自分に。


ただ音楽がすきで、彼に出会って、彼をすきになった自分に。