や、や、ば、やばい。
メイドに連れられ、風呂場につき、あまりの広さと豪華さに圧倒されていたものの(本日2回目)、重大な試練に直面していることに気づいてしまった。
見た目の可愛らしさに忘れていたが、『御影雪』は男の子だ。
脱いでもいいものだろうか。脱がないと不衛生だし、かと言って本人に許可なく見てしまうのも…
そうこうしているうちに、スマホが鳴った。
『如月、さん。あの、その…』
言い淀んでいるところを聞けばなんとなく想像がついてしまった。
彼も今の自分の心境と同じところなのだろう。
「お風呂……………だよね。」
『…う、うん。は、入らないとだよね。』
……それは当然のことだ。明日は金曜日、学校があるのだから。
突然。御影が声をあげた。
『み、みみみみみていいかな?!』
「な、ななななにを?!」
つられて声が上擦る。
分かりきっていることだが、馬鹿みたいに「はい!」なんて元気に言えるわけがない。
「む、むむむ胸を!」
馬鹿正直に答える彼が可笑しくて思わず吹き出してしまった。おそらく彼の頭は茹で蛸のように真っ赤に
染まっていることだろう。
あんまり笑ったもんだから、恥ずかしさなんて吹き飛んでしまった。
「いいよ、普通にお風呂入って。」
笑いがおさまらず、声を震わせながら伝えれば、
高い声で勢い良い返事が聞こえた。
『じゃあ、僕の体も……如月さんにだけは見せてもいい。』
忘れかけた恥ずかしさが戻ってきて、今度は私がタコになってしまった。
「う、うん。わ、わわかった。」
これ以上は話す勇気もなく、通話をオフにする。
ずっとお風呂場にいたらメイドたちに怪しまれるため、そろそろほんとに覚悟を決めなければならない。
スカートのホックを外し、シャツと下着だけよ格好になる。
意を決してシャツに手をかける。ボタンを一つ一つ、確かめるように慎重に外していく。最後の一つを外し終え、パサっと真っ白なワイシャツが床に落ちる。
服の下には華奢ながらも引き締まった身体が見え、男の子なのだと改めて意識させられる。
そして、目を瞑り、見た目に似合わぬボクサーパンツを思いっきり脱ぐ。
すぐに近くにあったタオルを腰に巻き、深呼吸する。いつのまにか呼吸まで止めていたようだ。
下がスースーするのは気にしない、気にしない!
暗示のように言葉を繰り返し、なんとかシャワールームに入る。
シャワーを浴び、下の方は心を無にして洗った。そして浴槽に足を入れる。肩まで浸かり、つい気になってちらりと下を見る。幸運なことに入浴剤が入っていて、真っ白で見えなかった。助かったと思うと同時に、これからトイレの時はどうすれば良いのかとまた、新たな懸念が出てくる。それに、まだ会ったことのない『御影颯汰』という存在。さらに嫌われているという親の存在。
考えれば考えるほどこの先が不安になってくる。なんだか頭がぼやぼやしてきた。
あ、これや、ば、い………
薄れゆく意識の中、最後の力を振り絞って浴槽から出た。
