眠る王子にお姫様はキスをする

  シャンデリア?大理石?彫刻?らせん階段?
あはは、あんなところに大きな壁画がある〜。
横にはメイドさん控えてるしー……………



 ………………はっ!



家の豪華さに圧倒され、家の中に入ってポカンと突っ立っていること5分、ようやく正気に戻り、靴を脱ごうとした。


 すると、

 「靴の中に何かゴミでも入りましたか?」

  無表情でメイドに言われ、彼女の足元を見れば靴を履いたままだった。



 ここは海外か!と思わず突っ込みたい衝動を抑え、靴を脱いでトントンと払い、また、履いて
「ええ、ちょっとね。」と恥ずかしげに笑えば、驚いた顔をされた。……何か、変だったのだろうか。





 そのまま、鞄やら上着やらを流されるままに脱がされ、夕食の有無を尋ねられた。食べてきたからいらないと言えば、部屋に案内された。
 
 

 部屋に着くと、聞いていた部屋とは違い不思議に思っていると

「雪様のお部屋は颯汰様のご意向により、改修工事が行われていますので暫くはこちらをお使いください。」
 と言われた。



 颯汰というの御影雪の兄、御影颯汰のことだ。雪曰く「ひとりぼっちだった私をずっとそばで支えてくれた大事な人」らしい。しかし、兄という生き物は皆同じなのか、相当なブラコンと聞く。雪もブラコンだと思うが。



こんなに綺麗なお屋敷で改修工事……すでに十分な気がするが、「雪の部屋は広くなくては!」というご意向があるそうです、はい。





 「では、お風呂に入られる際はお呼びください。ご用意は出来ております。」

そう言って、ドアが閉められると、詰まりそうだった息を深呼吸してなんとか正常に戻す。



   

 
 ……ふう。

 突っ込みたいところは山のようにあるが、キリがないため、諦め混じりのため息をつく。



 にしても、広い!豪華!
 やはり、日本屈指の富豪、御影グループの御子息なのだと改めて実感した。
 
 この前、テレビで世界総資産ランキング100位以内に入っていた気がする。
 



 うちもそこそこあるかな?程度に思っていたが、次元が違うと思い知らされる。


 考えれば考えるほど疲れてきて、近くのソファに腰掛ける。視界に入ったベッドをよく見れば(よく見なくてもすぐわかるが)キングサイズ。寝返りを打っても全く落ちそうにない。素晴らしい。

 

 頭を空っぽにしてしばらくの間、ぼんやりしていた。そろそろ体を休めようとお風呂に入ることにする。 

 そういえば、お風呂の時は呼べって言ってたけど、ベッド横のテーブルにある固定電話から呼べばよかったはず。

 



 …………やばい、番号を忘れてしまった。
 

  メモを取り忘れた自分に腹が立つ。
 仕方ないので、御影に電話をかける。

 
 プルルルル…

「あっ、もしも」
そう言いかけた時、思いがけない言葉に固まってしまった。


 『ちょ、なんでこんな恰好しなきゃならないんですか!!め、メイド服なんて……』


『え〜、瑞季、絶対着てくれないんだもん。せっかく買ったのにずっと仕舞いっぱなしって勿体無くない?それに、さっき、"なんでも"言うこと聞くって言ったよね??』




 ……………………………。




………兄よ。おい、バカルカ。私の体になんてことしてくれているんだ。



 「ルカお兄ちゃん?なにしてくれていやがるんですか?」

自分でもありえないくらいの低い声で電話越しに圧をかける。



 『えっ、幻聴?愛されすぎて瑞季の幻聴聞こえちゃった感じ?』


……………はぁ。普通に電話だし、御影くん、「あっ、電話…」ってすぐ気づいたみたいですけど……?


 それに、愛されすぎてじゃなくって『愛されたすぎて』の間違いではなくて?



 どこから突っ込むべきか悩んでいると、御影くんが電話越しに話しかけてきた。

 
 「ご、ごほん。如月さん?どうしたの?何かあった?」


 あからさまな咳払いにあっちも大変なんだなと同情の念を送る(本日2回目)。


「内線の番号忘れちゃって……」

「あぁ、そのことね。えーっと1は………」

 説明を始めた御影の言葉を一つも漏らすものかと必死にメモを取る。1〜30まであるって流石に覚えきれないでしょう…


30まで聞き終えて、やっと一息つく。
そして……………兄に代わってもらった。


 お説教タイムの始まりだ。
 「ルー兄………まだ懲りてなかったんだね。小さい頃は着せ替え人形みたいのやったたけど、流石にこの年でやる?!
  …………時々宅配が届いたけど、まさかそう言うのを頼んでたわけではないでしょうね?」

「……………」

無言を貫き通すつもりか?ルー兄。
 あとで一発お見舞いしておこう。


 「御影さんもごめん!こんなバカなことに付き合わせちゃって。嫌だってはっきり言ってくれていいからね?」

「……じゃないけど。ただ如月さんの………」

声が小さすぎてうまく聞き取れない。

 「ごめん、もう一度いい?」



「嫌じゃないけど、如月さんなら絶対似合うなって想像しちゃったの!それに、目の前で着替えろって………」



 
 
  最後の一文とんでもないことが聞こえた。


  ルー兄…………。変態が過ぎる。私の我慢ゲージはとっくの昔に超えてしまった。


 
 「ルー兄は、私の家族やめてください。もう口も聞きたくありません。さようなら。」


  ブツッと電話を切り、ベッドにスマホを投げつける。そしてソファに勢いよく座り、頭を空っぽにすることだけを考えた。

  









  どのくらい経っただろうか、なかなか呼ばれないことに心配したメイドがドアを叩いた。
 

  今から入る、と告げ、頭空っぽの状態で風呂場に向かった。
 


 だから、忘れていた。次なる試練が待ち受けていたことを………。