「・・・なにかご用でしょうか」

少し手前で立ち止まり、佇んでいた女性に向かって硬い声をかけた。恐らく顔はもっと強張ってたに違いない。

ピンクベベージュのノーカラーコートから覗くリボンタイのブラウス、大きな花柄のフレアスカート。緩く巻かれたセミロングの髪は少し明るめのブラウン、メイクは華美でもなく清楚な美しさが際立った面差し。

歳は26か7くらいだろうか。ナオさんとひと回りは違いそうな。しっかりとした眼差しを返しながら彼女がおもむろに口を開いた。

「新宮沙喜さんですか」

「・・・どちらさまでしょう」

YESともNOとも言わずに。

「吉見の妻です。・・・初めまして」

淡々とした話し方。怒りや憎しみの感情はまるで見えずに。・・・かえって言い知れない怖さに煽られる。

「今日はお渡ししたいものがあって伺いました。・・・こちらをどうぞ」

そう言って、法律事務所のロゴが入ったA4サイズほどの封筒を差し出す彼女。

「なんでしょうか」

・・・分かっていて。あえて受け取らずに訊き返す。下手に認めるような言動も行動もナオさんの立場を追い詰めるだけかもしれない。

守れるところまで守らなくちゃ。頭にはそれしかなかった。