「お疲れさまでした新宮さん。これで歯の治療は終了になります。長い間よく頑張ってくれましたね」

吉見先生の目が優しく弧を描いて、わたしを労う。

マスクで半分隠れていても、イケメンの笑顔は半減しないんだなって。当たり障りのない返事をしながら、そんなことを思っていた。

「歯って、きちんと磨いてても虫歯になることもあるし、色んな要因で歯茎が弱ったりしちゃうんですよ。やっぱり定期的に検診させてもらうと発見も早いですから、2ヶ月後にまた診させてください」

「分かりました。わたしもその方が安心できますから、よろしくお願いします」

「お大事にしてください」

医師と患者の会話を交わし診察台を下りて会釈する。目は合ったけど甘い熱なんてない。先生は仕事中なんだから。

クリニックを後にして、ふっと吐息を漏らす。

ユウスケと『別れ話』をする前に逢ったあの夜から。先生は公衆電話から声を聴かせてくれるようになった。

“沙喜に会いたい”

繰り返される呪文。

でも会えない。・・・寂しい。

そうだった。レンアイってけっこう苦行だった。会社に向かって歩きながら、冷たい空気に首をすくめた。