自分の中にも前兆があって。でもそれを現実にするつもりも、しようとも思ってなかった。テレビや雑誌で目にする上等な男に淡く恋い焦がれるような。おとぎ話でよかった。

臆病者だから。

青信号に変わり、前に向き直って車を発進させる先生。わたしも視線をウィンドウの外に流すフリ。沈黙が二人のあいだに降りてしばらく。微かな吐息を逃し、口を開いた。

「・・・・・・先生はわたしにどう答えてほしいですか」

先生の望みはなにか。ユウスケとの5年間で憶えたのは(わきま)え方。割り切り。

満たされていない何をわたしに求めるのか。

すべてを与えようとは思わない。欲しいものだけをあげる。バランス。ギブアンドテイク。ルール。・・・崩れれば成立しない。

だから手探る。
先生の本心を。
このひとは、わたしをどうしたいのかを。