「もし彼女が生き、目の前で私の懺悔に耳を傾けたなら、貴女のような反応を示したのかもしれません。ただ、所詮は与太話だ。知りたいならお教えして差し上げます。問うてください、〝何故男を殺したのか〟と。求めている回答が返ってきますよ」
「何故、男を、殺した」
「人を殺したかったからです。正当な理由で」
「…翡翠、」
「先程申し上げましたが、人はその気がなければ容易に人を殺められません。彼女は動機に過ぎない。あくまで私が正当な殺人を犯すための、道具に」
「…」
「殺人は正義じゃない」
格子の中から此方を射るその目と目があった時、すべてを共有した。
男が罪を犯した理由は、瞳が物語っていた。
天窓から、陽光が射している。
壁に凭れて男の素足が床を滑った時、光の中を掴めない塵が飛んで消えるのが見えた。私は、この掴めない光の在り処を知っている。
定刻に李刑務官が収監所の扉を開き、涙で濡れた私には目もくれず翡翠の檻の戸を開く。その腕にしがみつくことも出来ずにただ咽び泣けば、やさしい表情で左右に顔を振られた。
「翡翠、」
「丽芬です」
「、」
「私の名前は、尹 丽芬」
私が刑務官の職を辞するその最期の日、鉄格子から出た男は実に穏やかだった。
草臥れた煤色のツナギに頭から灰を被ったような丼鼠色の髪は開いた扉の向こうから射す陽光に照らされ、白い肌に透けて落ちる。
立ち尽くす私を抜け、その光に贖うように、彼はゆったりと呟いた。
「いきましょう」



