七瀬くんは掴んでいた腕をするりと離し、小さいため息をついた。
「…遠坂さん」
「は、はい!」
「俺の時もタメ口で喋って」
「無理です!(即答)」
「……なんで」
「七瀬くんにタメ口で話すくらいなら私は今ここで舌を切り、人生を終えます」
「ええ……」
「───…というのは冗談です。すみません」
「……」
ムッとした七瀬くんは両手で私の頬を引っ張り出した。
「ななへふん、いひゃいです」
「…俺は、きみに敬語で話されると壁があるようでとても嫌です」
「はあ…」
どうして七瀬くんも敬語なんだろう。
「…あとは、遠坂さんと中条くんが親しげにしてるのを見て、ちょっとというか…かなり嫌だなって…思いまし…た……」
ゆっくりと彼の手が私の頬から離れていく。
七瀬くんがシュンとしている…!
今の七瀬くんは、まるで飼い主に構ってもらえなくて、一匹部屋の隅で落ち込んでいる猫のようで少し…いや、だいぶ可愛らしいと思ってしまった。
「…七瀬くん、それはもしや…ヤキモチ、ですか?」
そう聞くと七瀬くんはちらっとこちらを見る。