「…な、七瀬くん、わざわざ走ってきたんですか?」
あの七瀬くんが歪んだ表情で汗を流している。
「七瀬くん、私は中条くんとそこまで仲良い関係ではないので何の心配もいりませんよ?…あ、でも、中条くんならきっと七瀬くんと友達に───」
「敬語」
「…んえ?」
七瀬くんの掴んでいる手の力が少し強まった。
「あやちゃんさんならまだしも、遠坂さんは基本異性に対して敬語で話す人なのかと思ったら中条って人には普通にタメ口だった」
「七瀬く───」
「いつも思ってたんだけど、遠坂さんは俺と話す時、なんで敬語なの?」
いつもの眠たげな瞳が今は焦っているような、動揺しているような───…七瀬くんらしくない表情だ。
「…私が、敬語なのは、七瀬くんは私にとって好きな人であり、憧れの存在でもあるので、私のような凡人がタメ口で話すのは失礼だと思い、敬意を込めて丁寧口調で喋っているだけでありまして…!!」
ペラペラと早口で説明する。
「…俺に憧れる要素なんてある?」
「ありますよ!七瀬くん、テストはいつも学年トップだし、本当は運動できるくせにだるそうに体育の授業受けてるし、見た目の割に優しいし、あとは───…」
「うん、もういいよ。ありがとう」


