七瀬くん、恋をしましょう



***


「汐莉、ウチは怒っている」

「うん、ごめん。ほんとごめん」


次の日の朝、教室に着くと不貞腐れた絢ちゃんが突進してきて、現在抱き締めの刑にあっている。


「絢は激怒した」

「言い方が『走れメロス』の冒頭部分だね」


何故、絢ちゃんが怒っているのか。

それは昨日の放課後、七瀬くんと勝手に帰ったからである。


「絢ちゃん、ごめんね。七瀬くん眠たそうだったから先に帰ろう…ってなってね」

七瀬(あいつ)幼稚園児かよ」

「"あいつ"なんて言っちゃダメだよ」

「…ふんっ、とにかく七瀬くん許さない。いくらイケメンでも絶対許さない」

「絢ちゃん…」


眉をハの字に下げ、よしよしと彼女の頭を撫でていると───…。


「はいはい、そこのお2人さ〜ん!教室の入り口でイチャイチャするのやめてくださ〜い。邪魔で〜す!」

「…わっ!?ごめん中条(なかじょう)くん!」


同じクラスの中条くんが私たちに声をかけてきた。


「つーか、アヤご機嫌ななめじゃん。どしたん?」

「ちょっと色々あって…」


苦笑いをしながら絢ちゃんの代わりに答える。