七瀬くん、恋をしましょう



なんてことだ。

話したこともない男子の目の前でぶっ倒れて保健室まで運んでもらっただって…?


『お、お礼言わなきゃ……』


その後、クラスのHRが終わった途端、私は一目散に七瀬くんという人のクラスへ向かった。

そして体育館の入り口付近で見かけた彼の後ろ姿を発見。

夏休み前日で気分が急上昇している生徒たちをかき分け、七瀬くんの背中めがけて精一杯の声で呼び止める。


『あ、あのっ…!』


走った拍子にドクドク、心臓が高鳴った。

眠たそうな瞳で振り返る彼になんてお礼を言うか考えていると───…


『自分の体は大切にしなね』


フッと微笑みかけてくれた表情が強く目に焼き付いた。

それから次の日も、夏休み真っ只中の間も、七瀬くんが頭から中々離れなくて。

高校1年生の2学期が突入してからも無意識に彼を目で追うようになった。

違うクラスの友達から教科書を借りにいくフリして七瀬くんを見に行ったり、

廊下ですれ違うだけで嬉しくなったり。


気づいたら七瀬くんに対する気持ちが"良い人"から"好きな人"になっていた───。