いつの間にか目の前に来ていた彼は鞄から何かを取り出し、私の手の上に『鉄分』と大きく書かれた飴の袋を乗せる。
『あの…これ…』
『鉄分取れる飴。少しでも貧血がマシになると思って……あげる』
『ありがとう…ございます…』
『…ん。自分の体は大切にしなね』
彼はそう言って少し微笑みかけてくれた。
その後、立ち去って行く彼の背中をぼんやりと眺める。
両手の中には飴の袋が収まっていて。
そしてそのままくしゃっと音を立てて握りしめる。
トクン、トクン。
心臓が鳴り響き、胸の辺りがじんわりと熱くなっていく。
結局、保健室まで運んでくれたお礼言えなかったな…。
両手で握りしめていた飴を見つめ、心の中で、
『ありがとうございます』
小さくなっていく彼の背中に向かって感謝を伝えた。