◇◇◇◇◇◇

 外は木枯らしが強くて寒い今日。でも、暖かい車内。こけねこイベントに向かう新幹線の中で、私は戸惑っていた。

 ずっと蓮くんが近いよ。暖かい、むしろ暑いくらいなのは暖かい車内のせいだけじゃないと思う。

「ねぇ、もも見て。かわいいな。」
「そ、そうだね。」

 蓮くんが携帯を見せてくる。こけねこイベントのホームページ。イベントはこけねこたちが紛れた展示室を見ることができる。森の中に迷い込んだこけねこを探すようだ。それからグッツ販売も行っている。

「お。新しいのいっぱい売ってるみたいだ。これも欲しいし、これも欲しいな。」
「う、うん。ホントだ…」

 うれしそうに話しかけてくれるけど、私は気が気じゃない。蓮くんは私にピッタリくっついて近いし、ずっと手を繋がれてる…!自分の心臓がうるさい。

「こけねこカフェもあるんだよ。ここでお昼食べようよ。」
「う、うん…そうしよう。」
「もも…」

 蓮くんが心配そうに私を呼んだ。うっ。蓮くんの綺麗な顔が目の前に。

「もも、楽しくない?それとも調子悪い?」
「えっ?そんなことないよ。すごく楽しいよっ…」
「ホント?」
「うんっ!誘ってくれてありがとう。」

 そう言うと蓮くんがとろけるような笑顔になった。

「よかった。」

 優しい笑顔で私の頭をなでる。

「…っ」

 思わず息を吸うのも忘れてしまった。まるで宝物を触るように私に触れる。愛しそうに私を見る。このレンくんを見てると私って愛されてるんだって思える。胸がぎゅっとして痛い。涙が出そう。

 思うとこんな風に私を見つめてくれることがよくあった。恋愛音痴の私は全然気づかなかったけど。今となると前から私の事を大事に思ってくれていたのかも。

 「もも、大好き」

 蓮くんがそう囁き、私をぎゅっと抱き締めた。温かい蓮くんの体温とふんわり香る柔軟剤のやさしい匂い。幸せが胸いっぱいに広がった。すごくドキドキして胸が苦しいけど、蓮くんに抱き締められると安心する。ずっとこのままでいたいって思っちゃう。

 どうしよう。離れたくないよ。今日、蓮くんに言わなきゃいけないのに。決心がにぶっちゃいそう。

 今日だけ。今日の最後に言うから、それまではこの幸せを感じていてもいいかな。今日だけだから…