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『もも!』

 バイトを終えてとも庵を出るとまたレンくんが待っていた。あれから何回か会いに来てくれた。

 レンくんと連絡とっちゃだめ、会っちゃダメと心に蓋をしているけれど、実際会うと簡単にその蓋が外れそうになる。会うとやっぱりすごくうれしいの。むねがきゅっと甘く痛む。

『もも、お疲れ。』
『うん…ありがとう...』

 面と向かって無視なんてできないから思わず返事をしてしまった。レンくんは私の声を聞いてすごくうれしそうに笑った。うっ。つらいよ。レンくんを避けるのはホントつらい。私だってそんなことしたくないんだもん。

『お願い。俺の話を聞いてくれる?』
『……』

 手を掴まれた。少し硬いけど柔らかいレンくんの手。

 ドキンと激しく胸が鳴る。私の胸は簡単にレンくんに反応する。

 真剣な表情。ドキドキして見つめた。ほら、やっぱり目を離せなくなる。
 
 話って何なんだろう。こんなに一方的に避けている私にそんなに話したい事って…。話くらい聞いてもいいかな。なるべくレンくんの目はみないようにして。避け続けるのはつらい。

『レンくん、話って、な…』

 話を聞こうとした時―

『もー、ももちゃん!待っててって言ったじゃん。寒いんだから店の中で待ってればいいのに。』
『智くん!』

 今日こそは一人で帰ろうって思ってたのに。最近いつも家まで送ってくれる。さすがに申し訳なくって。

『大丈夫だよ。一人で帰れるから』
『遠慮しないで、俺たちの仲じゃん。』

 智くんはそう言いながら私の腕に自分の腕を絡ませてきた。

『ちょ、ちょっと。』
『しっ!』

 外そうとしたら智くんに小さい声で止められた。

『あ、またレンクンだね。最近どうしたの?じゃ、俺たち帰るね。』
『あっ…』

 私を引っ張りながらレンくんに背を向けて歩き出した。

『も、もも!聞いて。俺は柚葉とは付き合ってない。ももにだけは誤解されたくないんだ!』

 レンくんが叫んだ。

 え

 驚いて後ろを向くと、レンくんの悲しそうな顔が。

『ももちゃん』

 やさしく智くんが私の名前を呼んでおでこにチュッとキスをした。

『え?』

『今日はカフェラテの気分じゃない?』

 いつの間にか角を曲がり、レンくんの姿は見えなくなった。