大学前の地下鉄に乗り、家の最寄り駅までいっしょに行くことになった。俺たちの最寄り駅は同じ。大学に入学してから毎日同じ駅で乗り降りしていたのに会わなかったのが不思議だ。この駅は乗客が多いから無理もないか。

 俺は隣に座るももをじっと見た。ももは車両内の雑誌の広告を見ていた。少しだけ色素の薄い髪を肩の上で切りそろえて片方だけ編み込みがしてある。茶色の丈の長いチェックのワンピースにグレーの大き目なカーディガンをふわっと羽織っている。派手ではないけれど地味でもない。もものやさしい雰囲気によく合った服装だ。そしてピンク色の唇はぷくっとしていて何も塗ってないはずなのに艶がある。

「かわいい…」
「え?」

 ももが俺を驚いたように見て、顔を赤くした。まずい。もしかして。

「え?俺、声に出てた?」
「う...うん…」
「ごめん...俺今日おかしいわ。ももに会えて動揺してるみたい。」
「そ、そっか。私も久々のレンくんでちょっと動揺してる。ふふ」

 ももがはにかんだように笑う。ああ。ももは可愛すぎる。

「今日はこれからどうするの?」
「私は3時からバイトがあるから帰ろうかな。」
「バイトか。どこでしてるの?」

 最寄り駅で降りてカフェにでも一緒にどうかと思ったが残念。でも、これでよかったのかもしれない。初日から飛ばしすぎもよくないよな。

「和菓子喫茶店のとも庵だよ。昔一緒に一度行ったことあるよね。覚えてる?」
「おお!覚えてるよ。そこで働いてるの?へ~!さすがももだね。」
「高校1年生の時からだからもう5年目になるよ。大好きな和菓子に囲まれて、素敵な店長と働けてすごく楽しい。」

 ももの満面の笑みにつられて俺も自然と笑顔になる。

「そういえば、ももは食物栄養学科だったよな。それと和菓子は関係あるのか?」
「うん。恥ずかしいんだけど、いつか和菓子を作る仕事したいなあって思ってるんだ。」
「ももらしくていいね。またとも庵に行きたいなあ。」
「来て来て!水木が定休日で、営業時間は10時から18時だよ。」
「うん。わかった。」

 その後もいろいろな話をして、連絡先を交換して駅前で別れた。