「はい、ココアだよ。」
「え?私に?ありがとう。」

 一口飲むと、優しい甘さが体全体に広がった。

「…おいしぃ」

 ももちゃんが小さくつぶやきながら微かに笑った。よかった。やっと笑った。

「智くん、ごめんね。つきあわせちゃって。」
「え?俺はココア飲みたかったからちょうどよかったよ。ももちゃん、つきあってくれてありがとう。」
「智くん…」

 ももちゃんが苦しそうに笑いながら俺を見た。そんな顔しないでほしい。俺がいつでも笑わせたいのに。

「行こ。家まで送るよ。もうすぐそこだし。」

 もう一度肩を抱いて歩き始めた。

 べしっ!

「いてっ」

 ももちゃんが俺の手を叩いた。これでこそいつものももちゃんだ。

「い~じゃん!暖かいんだもん。」
「だめ!」
「い~じゃん、ももちゃんのケチぃ」

 わざと口をとがらせて大げさに拗ねてみた。

「ふふっ。ケチぃじゃないの。」

 ももちゃんが笑ってくれた。

「今日、抹茶ケーキたくさん売れたね。」
「そうだね。智くん目当てのお客さんばっかりだったけどね。」
「え~?妬かなくていいのに。ももちゃんが一番だよ。」
「妬いてません」

 自然に話題を変えた。二人に何があったのかすごく気になるけど聞ける雰囲気じゃない。